Credit:産業技術総合研究所
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探検家志望から南極の地質研究へ——海底堆積物が語る地球の未来【ナゾロジー×産総研 未解決のナゾに挑む研究者たち】

2025.10.01 12:00:01 Wednesday

南極はどんなところ?と聞かれたら、どのようなことを思い浮かべるでしょうか。

真っ先に思い浮かぶのは、地球上で一番寒い場所、氷と雪の世界、昭和基地、ペンギン、樺太犬のタロとジロなどでしょうか。

南極を舞台にした作品だと、映画「南極料理人」や、「宇宙よりも遠い場所(通称:よりもい)」というアニメが話題を呼んだため、こうした作品を思い浮かべる人も多いかもしれません。

また、近年、南極大陸を覆う氷の塊である氷床(ひょうしょう)の融解速度が加速しており、このまま続けば近い将来世界の海面が数m上昇するかもしれない、という恐ろしいニュースを耳にしたことがあるかもしれません。

南極は決して簡単に行ける場所ではないため、アニメや映画で描かれている世界は本当なのか? 基地ではどのような研究が行われているのか? 研究者たちは現地でどのように生活しているのか? そもそもどうやって行くのか? など多くの疑問があると思います。

そこで今回、産業技術総合研究所・地質調査総合センター・地球変動史研究グループ長の板木 拓也さんにインタビューを行い、ご本人が南極で体験した貴重なお話の数々をお聞きしました。

この記事は、「産総研マガジン」でも同時公開されています。産総研マガジンの記事はコチラ!

一体なぜ南極に行こうと思ったのか?

――人生において、なかなか「そうだ南極、行こう。」とはならないと思うのですが、一体なぜ南極を目指すことにしたのでしょうか?

板木:元々は探検家になりたかったんです。

――探検家ですか!きっかけはなんだったんですか?

板木:高校時代から真剣に山登りをしていて、大学でも続けて、ゆくゆくはヒマラヤの高峰に登りたいと考えていました。ところが、高校3年生の頃、腰を痛めてドクターストップがかかり、山登りができなくなってしまいかなり落ち込んでいました。

そんな時、植村直己さん*1の著書で北極圏12,000 kmを犬ぞりを使って単独で走破したエピソードなどを知って感銘を受けました。これがきっかけとなって、垂直方向に進む山登りだけじゃなく、水平方向に進む極地探検に魅せられて、植村直己さんのような探検家になりたいと憧れるようになったんです。

(*1 植村直己:うえむらなおみ。世界最高峰エベレストに日本人で初めて登頂した登山家、冒険家)

――でも現在の職業は研究者ですよね。探検家と研究者はあまり結びつかないのですが、どのような心境の変化があったのですか?

板木:大学に入学した時、登山や探検ができる部活が無かったので、自分で探検部を作り、医者に止められていましたが結局山登りなどの活動をしていました。

ただ、周りの本気で冒険や探検を職業にしようとしている人たちはすごい人が多くて、その中で自分が勝ち残れるのか自信が持てなくなってきました。それに進路などを真面目に考えるようになると、これがあまり現実的な夢じゃないなってことを意識するようになって来たんですね。

ここで高校からの夢が破れた気分になっていたんです。

でも探検っていうのは自然の中に入って色んなことを探り調べるものですよね。大学3年生の頃に地質学や海洋学など野外調査をベースに研究する自然科学について知っていくと、これはかなり探検に近いんじゃないかと感じたんです。そうして将来のことを考える中で、だんだんと研究者を志すようになりました。

――では大学時代はどのような研究をされていたのですか?

板木:学部では海洋開発工学、大学院では地球環境科学を専攻しました。

でも研究の道を進みつつも、やっぱり心の底には「植村直己さんも行けなかった南極に行ってみたい」という思いがあり、卒業論文は南極海の堆積物をテーマに選んで、なんとかこれをきっかけに南極に行けたら、なんてことを考えていました。

ただ、大学院に進んで本格的に研究を始めると南極ばかりにこだわってもいられず、船で世界中の海域を調査して回りました。

南極には行けませんでしたが、これはこれで結構楽しかったです。

――学生のときから、世界の海を調査して回っていたんですね! 学生時代に行った調査で特に思い出に残っている場所はありますか?

板木:北極ですね。実は大学院生のとき、博士論文が仕上がらなくて悩んでいた時期があって、その時の研究室の教授に「君、北極に行ってきなさい」と言われ、論文もまとまらぬまま北極への調査船に乗り込みました。

当時の北極は今と比べて夏でも氷がたくさんあり、夜は安全のために船が動かせずエンジンを切って真っ暗な海上を漂っていました。そうすると、北極海は陸に囲まれている上、氷も張っているから波が立たなくて本当に静かなんです。おまけに、周りに大きな町がなくて光が届かないし、いつも曇っているので夜は何も見えません。

ただ、調査に行った1カ月のうちほんの2、3日だけ晴れた日があって、船の人が声をかけてくれたので、甲板に出てみたんです。そしたら、真っ暗な静寂の中、無辺な夜空にものすごい数の星や天の川が広がっていて、流星群が次々と流れてくるんです。そこに緑とかいろんな色のオーロラのカーテンがバーっとかかっていて、その光景を見たらもう感動して涙が出ました。

――とても幻想的ですね。オーロラといえば、ちょうど最近も太陽活動周期の極大期で、極域近くではオーロラがすごいって話題になっていましたよね。

板木:太陽活動周期って11年周期で変動しているんですが、当時私が北極を訪れたときもちょうど太陽活動の極大期だったんです。実際に見た時はオーロラの光が手の上に降ってきそうな感覚で。これってつまり自分の掌に降ってきているのは宇宙なんだと感激しました。

そしたら、日々悩んでいたことがとてもちっぽけに思えて、全部吹っ切れました。

オーロラのように極域でしか見られない光景にはなぜか人を動かす力を感じます。その頃からやっぱり極地の研究をやりたいなと思っていました。

次ページ夢の南極調査が実現した経緯

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