なぜ今、認知症リスクの世代差を調べるのか?
認知症(Dementia)は、高齢者における死亡や要介護の大きな要因の一つであり、世界保健機関(WHO)は2023年に「世界で7番目に多い死因」として報告しています。
しかも、人類社会は世界的な高齢化に進んでおり、認知症の患者数は今後ますます増えると見られています。
このような状況をふまえ、研究チームは今後の時代で認知症患者がどの様に増加するかを予測するため「年齢ごとの認知症率が、世代によってどう変わっているか」に着目しました。
Credit:canva 過去の研究では、認知症のリスクは主に年齢とともに高まるとされてきました。
しかし最近では、認知症の発症には高齢期だけでなく、幼少期から中年期にかけての教育や生活環境、健康習慣など、人生を通じたさまざまな要因が関係する と報告されています。
たとえば、第二次世界大戦中に生まれ育った世代と、インターネットとともに育った世代では、これらの条件はかなり異なるため、「生まれた時代=世代(コホート)」で、認知症の発症率にも大きな違いがある可能性が考えられるのです。
そのため、世代ごとの発症率をきちんと調査する必要があると、今回の研究チームは考えたのです。
研究では、アメリカ、ヨーロッパ、イギリスの3地域における大規模な高齢者調査のデータが用いられました。具体的には、アメリカの「健康と退職に関する研究(Health and Retirement Study:HRS)」、ヨーロッパ10カ国を対象とした「高齢化と退職に関する調査(Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe:SHARE)」、そしてイギリスの「高齢化に関する縦断調査(English Longitudinal Study of Ageing:ELSA)」の3つです。
これらはいずれも信頼性の高いパネル調査(同じ人を長期にわたって追跡する方式)で、研究チームは主に70歳以上の高齢者、総勢およそ6万人のデータを分析対象としました。調査は1990年代から2020年代にかけて継続的に実施されており、各参加者の認知機能や健康状態、生活状況に関する詳細な情報が記録されています。
ただ、これらの長期調査は、医師による認知症の診断結果は含まれていません。そこで研究チームは、記憶力テストや生活上の困難さなどの情報をもとに、認知症の可能性が高い人を推定するアルゴリズム を使って分析を行いました。
この手法は過去の診断データを参考に設計されており、診断の精度には限界があるものの、大規模な傾向をつかむには十分な信頼性がある とされています。
また、経済情勢などによる健康状態への影響を考慮するため、各国のGDP成長率なども統計モデルに組み込まれました。
こうして年齢や調査時期といった影響を取り除いたうえで、「生まれた年代(世代)」によって認知症の発症率がどう異なるのか を研究は調査したのです。
では実際に、世代ごとの違いにはどのような傾向が見られたのでしょうか。