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Credit:Retinoic acid breakdown is required for proximodistal positional identity during axolotl limb regeneration
biology

ニキビ薬成分が手足再生メカニズムを制御していたと判明

2025.06.20 21:00:35 Friday

アメリカのノースイースタン大学(NEU)で行われた研究によって、ニキビ治療薬として広く知られるレチノイン酸(ビタミンA誘導体)の濃度を調節する酵素が、アホロートル(ウーパールーパー)の驚異的な手足の再生能力を可能にする「位置情報」を制御していることが明らかになりました。

近年の研究においてアホロートルは再生医療研究界隈のクマムシとも言える重要な役割を担うようになってきました。

このレチノイン酸を組み込んだ再生促進の仕組みはヒトにも潜在的に備わっている可能性があり、将来的には指のような小さな部位や瘢痕のない創傷治癒から、さらにはより大きな手足の再生にまで応用できるかもしれないと期待されています。

人間が失われた手足を再び再生できる日が来るのでしょうか?

研究内容の詳細は『Nature Communications』にて発表されました。

Retinoic acid breakdown is required for proximodistal positional identity during axolotl limb regeneration https://doi.org/10.1038/s41467-025-59497-5

200年の謎:再生範囲は誰が決める?

ニキビ薬にも含まれるレチノイン酸はビタミンAから作られる物質です
ニキビ薬にも含まれるレチノイン酸はビタミンAから作られる物質です / Credit:wikipedia

アホロートル(メキシコサンショウウオ)は愛嬌のある見た目で人気ですが、失った手足を完全に再生する驚異的な能力を持つことで科学的にも注目されています。

サンショウウオ類の持つ卓越した再生能力、とりわけアホロートルが傷ついた肢(し)をそっくりそのまま数週間かけて再生できる仕組みは、長年にわたり謎とされてきました。

アホロートルが手を失ったとき、どうして切断位置から先だけを正確に再生できるのか――この疑問は再生生物学で長年解明されていない難問です。

こうした「失われた部位を正確に復元する」再生のメカニズムを解明し、人間への応用につなげることが研究の大きな目的でした。

ヒントとなったのは、発生生物学の知見でした。

レチノイン酸(RA)はビタミンA由来の分子で、胎児の発生段階で四肢をパターンづけるシグナルとして働くことが知られています。

ニキビ薬に含まれているレチノイン酸とは?

レチノイン酸(トレチノイン)とは、ビタミンAから作られる物質で、主にニキビの治療薬として使われています。私たちの皮膚は通常、新しい細胞を生み出し、それが古い細胞と入れ替わることで健康な状態を保っています。しかし、毛穴が詰まったり、皮脂が過剰に分泌されたりすると、ニキビができやすくなります。レチノイン酸はこの細胞の入れ替わりを促進して毛穴の詰まりを防ぎ、皮脂の分泌をコントロールすることでニキビの発生を抑える効果があります。さらに、レチノイン酸は皮膚のコラーゲン生成を促す作用があることも知られています。つまりレチノイン酸は人間の皮膚細胞において再生を促進する機能を果たしているのです。では他の生物、特に再生能力の高い生物では皮膚細胞だけに留まらず手足の再生にも関与しているのでしょうか?近年このレチノイン酸が細胞の位置情報を決定する役割を持つことがサンショウウオの再生研究から明らかになり、再生医療の分野でも新たな可能性が注目され始めています。

モナハン教授らは、アホロートルの再生でもこのレチノイン酸が“どの部分をどこまで作るか”を伝える合図になっているのではないかと考えました。

実際、レチノイン酸はアホロートル特有の物質ではなく人間を含む脊椎動物全般に存在し、私たちの場合は食事やスキンケア用のレチノール(ニキビ治療薬成分)として取り入れているものです。

研究チームは、この身近な分子がサンショウウオの再生能力の裏で果たす役割を詳しく調べることにしました。

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