自然界には「青が少ない」

空や海のように、自然界には青く見える風景は多くありますが、実際に「青い色素」を持つ生物となると、極端にその数は限られます。
この事実は、19世紀から20世紀にかけて博物学や植物学の分野で経験的に知られていました。たとえば、被子植物の中で青い花を咲かせる種は全体の10%未満しかなく、また青く見える動物の多くから、「青い色素が見つからない」という観察も文献上に記録されており大きな謎となっていました。
青い色素がないという理由については、20世紀後半の光物理学が進歩したことで、生物の羽や鱗の表面にある微細な構造が光の干渉によって作る色「構造色」であることがわかってきました。
このように、「生物には青い色素がほとんど存在しない」という事実は、長年の観察から研究者の間で経験的に指摘されてきました。
そして012年に、フランス・ソルボンヌ大学(Sorbonne University)とナミュール大学(University of Namur)の研究者、プリシラ・シモニス氏とセルジュ・ベルティエ氏が、実際に自然界に存在する青の発現メカニズムごとに「青く見える生物」を整理し、生物の青の発色には、光の干渉や散乱によって青色を生み出す「構造色」と、色素分子による「化学的発色」による2系統に大きく分類でき、自然界で観察される“青い色”の大半が、実は構造色によるものであることを系統的に明示したのです。
つまり、「青い生物が少ない」という経験的な指摘は、統計的にも正しく、実際に生物は青の色素を作ることが難しく、それゆえ構造色が代替手段として進化上選ばれていたことがわかったのです。
この観点から「なぜ青色だけが希少なのか」を改めて問い直した研究が、2021年に発表されたイギリスのジョン・イネス・センター(John Innes Centre)による分子植物学の報告です。
この研究は、植物が青色を生み出す際に要求される化学的条件が、他の色に比べてはるかに複雑であることを分子レベルで実証しました。
では具体的に、どのような条件で生物は青を生み出すことが難しくなっているのでしょうか?