Credit:canva
biology

なぜ「青バラ」は存在しないのか? 生物が“青い色素”を作るのが難しい理由

2025.06.14 21:00:35 Saturday

「青いバラ」は存在しないという話はよく耳にします。

そのため青いバラは“夢や奇跡の象徴”とされ、詩や小説にも登場しました。

バラの品種改良が驚くほど進んだ現代においても、真に青いバラはいまだ作られていません。市場で「青いバラ」として売られているものの多くは、白い花を人工的に染色したものです。

2004年には日本のサントリーとオーストラリアのフロリジン社が共同開発した「アプローズ(Applause)」というバラが、世界で初めて青色色素デルフィニジンを導入した遺伝子組み換え品種として発表されました。しかし、これも「青紫」に近い色合いであり、一般的にイメージされる鮮やかな青ではありません。

これはなぜなのでしょうか? なぜ赤や黄、白のバラはあるのに、「青いバラ」だけは長らく不可能だったのでしょう?

その答えを探るには、そもそも自然界に「青」は少ないということ、そして「青」という色がどのように作られているのかを理解する必要があります。

ここでは、「自然界に青が少ない」理由と、それを解き明かそうとしてきた科学者たちの試みを紐解いていきます。

Natural Blues: Structure Meets Function in Anthocyanins https://doi.org/10.3390/plants10040726 The blue palette of life: A comprehensive review of natural bluish colorants with potential commercial applications https://doi.org/10.1016/j.foodres.2024.115082 How Nature Produces Blue Color http://dx.doi.org/10.5772/32410

自然界には「青が少ない」

鮮やかな青は植物には見られない/Credit:canva

空や海のように、自然界には青く見える風景は多くありますが、実際に「青い素」を持つ生物となると、極端にその数は限られます。

この事実は、19世紀から20世紀にかけて博物学や植物学の分野で経験的に知られていました。たとえば、被子植物の中で青い花を咲かせる種は全体の10%未満しかなく、また青く見える動物の多くから、「青い色素が見つからない」という観察も文献上に記録されており大きな謎となっていました。

青い色素がないという理由については、20世紀後半の光物理学が進歩したことで、生物の羽や鱗の表面にある微細な構造が光の干渉によって作る色「構造色」であることがわかってきました。

このように、「生物には青い色素がほとんど存在しない」という事実は、長年の観察から研究者の間で経験的に指摘されてきました。

そして012年に、フランス・ソルボンヌ大学(Sorbonne University)とナミュール大学(University of Namur)の研究者、プリシラ・シモニス氏とセルジュ・ベルティエ氏が、実際に自然界に存在する青の発現メカニズムごとに「青く見える生物」を整理し、生物の青の発色には、光の干渉や散乱によって青色を生み出す「構造色」と、色素分子による「化学的発色」による2系統に大きく分類でき、自然界で観察される“青い色”の大半が、実は構造色によるものであることを系統的に明示したのです。

つまり、「青い生物が少ない」という経験的な指摘は、統計的にも正しく、実際に生物は青の色素を作ることが難しく、それゆえ構造色が代替手段として進化上選ばれていたことがわかったのです。

この観点から「なぜ青色だけが希少なのか」を改めて問い直した研究が、2021年に発表されたイギリスのジョン・イネス・センター(John Innes Centre)による分子植物学の報告です。

この研究は、植物が青色を生み出す際に要求される化学的条件が、他の色に比べてはるかに複雑であることを分子レベルで実証しました。

では具体的に、どのような条件で生物は青を生み出すことが難しくなっているのでしょうか?

次ページ生物にとって青色を作ることが難しい理由

<

1

2

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

生物学のニュースbiology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!