鉄鋼スラグが35年で岩石と化していた
この驚くべき発見の舞台となったのは、イングランド・カンブリア州のデアウェント・ハウ海岸です。
ここには19世紀から20世紀にかけて鉄鋼を生産していた工場群があり、その副産物であるスラグが2700万立方メートルも堆積されていました。
やがてこのスラグの山は風雨や波によって削られ、まるで自然の崖のような姿を見せ始めました。
しかし、研究者たちがその崖に埋め込まれた人工物を詳細に調べたところ、信じがたい事実が判明します。
1934年の硬貨と、1989年以降でなければ製造されていないアルミ缶のタブが、すでに岩石として固まっていたのです。
これにより、最短でも35年以内にスラグが岩石化していたことが確定しました。

この“新種の岩石”を構成していたのは、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガンといった化学的に活性な元素でした。
これらが海水や空気と反応することで、方解石や針鉄鉱(しんてっこう)などの天然セメント物質を生成していたことが判明しています。
これらは自然界でも堆積岩の形成に関与する鉱物ですが、通常は何千年もの時間を要します。
ところがこのスラグでは、同じ現象がわずか数十年間で完了していたのです。
研究チームはこの現象を「地球が新たに獲得した“人工岩石のサイクル”」と位置づけました。
しかもこれは特殊な例ではなく、世界中の鉄鋼スラグ堆積地で同様の現象が起きている可能性が高いとされています。