アルツハイマー病研究の常識が崩れるとき

私たちの脳は、記憶を作ったり、友達とおしゃべりしたり、音楽を楽しんだりと、人生のあらゆる場面を支えています。
その脳の健康を守るカギの一つが、「タウタンパク質」という小さな分子です。
普段のタウは、神経細胞の中で細胞の骨組みを安定させたり、情報伝達をスムーズにしたりして、私たちが当たり前の生活を送るために大切な役割を果たしています。
ところが年齢を重ね、アルツハイマー病が進むと、このタウタンパク質にリン酸という物質が過剰にくっつき、「リン酸化タウ(p-tau217)」という異常な状態に変化します。
この変化したリン酸化タウタンパク質は神経細胞の中で絡まった糸くずのような「タングル」を作り出し、脳の機能を次第に損なっていきます。
やがて記憶が薄れたり、日常生活が困難になったりするアルツハイマー病の症状が現れてしまうのです。
最近では、このリン酸化タウタンパク質の血液中の濃度を測ることが、アルツハイマー病の早期発見にも役立つとして注目されています。
つまり、このリン酸化タウタンパク質の数値が高いと、多くの場合、認知症の危険が迫っているサインだと考えられてきました。
しかし不思議なことに、胎児や生まれたばかりの赤ちゃんでも、このタウタンパク質のリン酸化が活発であることが動物実験から示されていました。
そこで、国際的な研究チームは人間も同じである可能性を調べることにしました。
もし人間の赤ちゃんにアルツハイマー病と深くかかわるリン酸化したタウタンパク質が多く存在する場合、リン酸化タウタンパク質の量がアルツハイマー病と関連するという既存の単純な予測が成り立たなくなる可能性もあります。
本当に人間の赤ちゃんでも、このタンパク質は多く存在したのでしょうか?