危険なリン酸化タウタンパク質、新生児では「患者の3倍」

本当に人間の赤ちゃんの体内にも、アルツハイマー病の指標であるリン酸化タウタンパク質が大量に存在しているのでしょうか?
その答えを得るため、研究者たちはまずスウェーデン、スペイン、オーストラリアという3つの国で、幅広い年代層から約460名もの血液サンプルを集めることから始めました。
対象となったのは、生まれたばかりの赤ちゃん(正期産児)、予定より早く生まれた赤ちゃん(早産児)、若者や健康な成人、高齢者、そして実際にアルツハイマー病と診断された高齢患者たちです。
特に今回は、人間の新生児でこのリン酸化タウタンパク質の量を直接血液から調べるという世界で初めての試みであり、研究チームは慎重かつ期待を持って調査を進めました。
すると驚くべき結果が出ました。
生まれたばかりの赤ちゃんの血液中に含まれているリン酸化タウタンパク質の量は、あらゆる年代の人々の中で最も高く、なんとアルツハイマー病の患者の約3倍近くも存在することが判明しました。
(※リン酸化タウタンパク質の血中濃度はアルツハイマー病患者が3.68 ± 1.75 pg/mLに対し新生児は10.19 ± 3.92 pg/mLにも達していました。なお健康な若年成人(18~25歳)では1.33 ± 0.69 pg/mLで、健康な高齢成人(70歳以上)では1.78 ± 1.31 pg/mLとなりました。)
さらに調査を進めると、この傾向は予定より早く生まれた赤ちゃんほど強く、より早産で生まれた赤ちゃんほどリン酸化タウタンパク質の濃度が高いという傾向が明らかになりました。
しかし、この値は出生後から徐々に低下を始め、生後3〜4か月も経つ頃には若い成人と同じくらいの低いレベルに落ち着いていました。
健康な10代以降の成人の間では、このタンパク質の量はずっと低いまま安定し、再び高くなるのはアルツハイマー病を発症した高齢者になってからでした。
しかし、驚くことに、そのアルツハイマー病患者でさえも、新生児に見られた「桁外れな高濃度」には全く及ばなかったのです。
つまり、人は生まれた瞬間と人生の晩年というまったく正反対の時期にこのリン酸化タウタンパク質が急上昇し、その間の健康な人生の大部分では非常に低いレベルで維持されるという、はっきりとしたU字型のパターンが浮かび上がったのでした。