「目には目を」ルールはなぜ生まれた?

誰かが他人にケガをさせてしまったとき、どのくらいの償いをすればよいのでしょうか?
この問題について、人類は昔からずっと考えてきました。
「ケガをした人はつらい思いをしているのだから、何かしらの形で償うべきだ」という考え方は、世界中のさまざまな文化に共通しています。
例えば、「目には目を、歯には歯を」という有名なルールを聞いたことはありませんか?
これは、「相手に与えた被害と同じ程度の償いをしなければならない」という考えを表しています。
実際に、こうした考えは古代メソポタミアで生まれた「ハンムラビ法典」という、歴史上最も古い法律の一つにも記されています。
古代イスラエルでも、聖書の中で同じ考え方が見られます。
一方、古代ヨーロッパでは「ウェアギルド(wergild)」という仕組みが使われていました。
ウェアギルドとは、「人の値段」という意味です。
これは、「体の部位ごとに金額を決めて、相手を傷つけたときにその金額を支払って償う」という方法でした。
同じように、古代中国やニューギニアの部族でも、「ケガの程度に応じた償い方」を法律や習慣として定めていました。
例えば、古代メソポタミアの「ウル・ナンム法典」には、こんな例があります。
「もし相手の鼻を切り落としてしまったら、銀40シェケルを払わなければならない。一方、歯を折った場合は、銀2シェケルを払えばよい」
つまり、鼻のほうが歯よりもずっと高い金額になっていますね。
これは、鼻を失うことのほうが歯を失うより生活に与える影響が大きい、という判断があったからです。
このように、人類は昔から「ケガの程度や体のどの部位がどれほど重要か」に応じて、償い方や金額を決めてきました。
これまで多くの学者たちは、「こうした体の価値を決める基準は、文化によってまったく異なるはずだ」と考えていました。
実際、食べ物や生活習慣、考え方が文化によって違うように、「体のどこを大切だと思うか」という考え方も、文化によって違うだろうと思われてきたのです。
ところが、今回の研究チームは、この考え方に新しい仮説を提案しました。
彼らは「実は人間には、どの体の部位がどれだけ大切かについて、文化や時代を超えた共通の直感があるのではないか?」と考えました。
例えば、私たちは「指を1本失うより腕を1本失うほうが大変だ」と直感的に理解しています。
これは、腕の方が指よりもずっと多くのことに使えるからです。
こうした考え方は特定の文化だけに限らず、多くの人が同じように感じる可能性があります。
つまり、人類が進化の中で共通して身につけた、「体の部位が生活に与える影響を自然に判断する力」があるのではないかと考えたのです。
もしこの仮説が正しいなら、古代から現代まで、様々な地域や文化、さらに専門知識を持つ法律の専門家だけでなく、専門知識を持たない一般の人々においても、「体のどの部分がどれほど大切か」という評価に共通のパターンがあるはずです。
研究チームはこの予想を確かめるため、実際に過去のさまざまな法律と現代の人々の感覚を比べる調査を行うことにしました。