19世紀から続く「ウニの双子」の謎

19世紀末、ドイツの発生学者 ハンス・ドリーシュ(Hans Driesch) は歴史に残る実験を行いました。
ウニの受精卵が「2細胞期(受精卵が最初の分裂を終えて2つの細胞になった段階)」の段階で、2つの細胞を引き離すと、それぞれが完全なウニの幼生に成長することを示したのです 。
この発見は、当時の生物学に大きな衝撃を与えました。
というのも、それまでは胚の各部分にはすでに将来の役割が決められており、切り離すと欠損した状態でしか育たないと考えられていたからです。
ところが、ウニ胚は自分の体の設計図を柔軟に描き直し、失われた半分を補うかのように発生をやり直しました。
これが「調節発生」と呼ばれる現象です。
実際、人間の一卵性双生児も、受精卵が発生の初期段階で自然に分裂し、それぞれが独立して成長することで生まれると考えられています。
つまり、ドリーシュの発見は、双子誕生という人類にとって身近でありながら謎の多い現象を理解する鍵でもありました。
しかし大きな疑問が残っていました。
胚が分割されると、本来1本だけと定まっている「前後軸(頭と尾を結ぶ軸)」や「背腹軸(背中とお腹の方向)」が乱れてしまうはずです。
では、なぜ分かれた胚が再び正しい位置情報を回復し、完全な体を作り直せるのでしょうか。
この「体の軸の再構築」の仕組みは、100年以上にわたり未解明のままでした 。