ADHDが人生に及ぼす「意外な深刻さ」とは

ADHD(注意欠如・多動症)は子どもを中心に広く知られている発達障害で、世界的に見ると子どもの約20人に1人(約5%)、大人でも40人に1人(約2.5%)が抱えているといわれています。
主な特徴としてよく知られるのは、集中することが苦手だったり、じっとしていることが難しかったりすることです。
授業中に先生の話を聞き続けることができない、じっと座っていることがつらい、といった問題が起きやすいため、学校生活や友達付き合いで苦労することが多くなります。
しかしADHDの影響は、こうした日常の問題にとどまりません。
これまでの多くの研究で、ADHDがある人は自分を傷つける行動(自殺に関連する行動)や、お酒・薬物の乱用(依存につながる使い方)、交通事故、さらには犯罪(有罪判決を受けるような行動)といった重大な問題にも巻き込まれやすいことが分かっています。
つまり、ADHDが引き起こす可能性がある問題は想像以上に深刻で、本人だけでなく家族や周囲の人たちにも大きな影響を与えることになるのです。
ADHDの治療にはいくつかの方法があり、専門家が患者さんの年齢や症状の重さなどを考慮して選びます。
心理社会的支援という薬を使わない方法もありますが、小学校の高学年くらいから大人にかけては、「メチルフェニデート」などの薬を使った治療が一般的です。
メチルフェニデートは、脳の働きを調整して注意力や集中力を高めたり、衝動的に動き出してしまうのを抑えたりする薬(中枢神経刺激薬)です。
ここ数年、ADHDの診断を受けて薬を使う人が世界的にどんどん増えていますが、薬を長く使った時に起こりうる副作用や安全性の問題についても活発に議論されてきました。
実は、過去のいくつかの研究では、「ADHDの薬を使っている期間には、自殺や事故など重大なトラブルが減る傾向にある」という結果も報告されていました。
しかし、そのような研究は対象となる患者数が少なかったり、特定の年齢層や限られたグループに絞られていたりして、「誰にでも当てはまる結果なのか?」という点では疑問が残っていました。
また、ADHDの症状の重さや家庭環境の違いといった他の要因(交絡因子と呼ばれます)の影響を完全には取り除けないため、「本当に薬が原因でトラブルが減ったのか、それとも別の理由でたまたま減ったのか」を判断するには、証拠としてやや不十分でした。
そこで今回、スウェーデンの研究チームは、こうした過去の研究での問題点をクリアし、「ADHDの治療薬を使うと、本当に患者さんが重大なトラブルを経験するリスクが減るのか?」という大きな問いに挑むことにしました。