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ADHD治療薬が犯罪・事故・自殺のリスクまで減らす理由とは? (2/3)

2025.09.15 22:00:23 Monday

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集中力だけじゃない——ADHD薬が重大トラブル防止に効く可能性

集中力だけじゃない——ADHD薬が重大トラブル防止に効く可能性
集中力だけじゃない——ADHD薬が重大トラブル防止に効く可能性 / Credit:Canva

今回の研究では、「ADHDの薬が本当に事故やトラブルを防ぐことができるのか」を調べるため、スウェーデンの全国規模で行われた調査のデータが使われました。

この調査は2007年から2018年の11年間に、新しくADHDと診断された6歳から64歳までの幅広い年齢層の人々、約15万人(正確には148,581人)を対象に行われました。

研究チームが注目したのは、「薬を飲んだ人」と「薬を飲まなかった人」の違いです。

ADHDと診断された人の中には、診断を受けてすぐに薬を使い始める人もいれば、使わないことを選ぶ人もいます。

この研究では、診断を受けてから3か月以内に薬を使い始めた人(約57%の84,282人)を「薬を飲んだグループ」、診断後にずっと薬を飲まなかった人(残りの43%)を「薬を飲まなかったグループ」として比べました。

使われた薬のほとんど(約88%)は、「メチルフェニデート」という薬です。

この薬は脳の特定の働きを刺激して集中力を高めたり、衝動的な行動を抑えたりする効果が知られています。

通常、薬の効果を厳密に確かめるには、「ランダム化比較試験(RCT)」と呼ばれる方法が使われます。

RCTでは、調査に参加する人をランダムに「薬を飲む人」と「薬を飲まない人」に分けるため、他の要因の影響を最小限にして、薬の効果だけをより正確に測ることができます。

しかし、実際にADHD患者をランダムに分けて長期間追跡することは、倫理的にも実際的にも非常に難しいです。

そこで今回の研究チームは、「ターゲットトライアル・エミュレーション」という特殊な手法を使いました。

これは、すでに集められた実際の患者データ(登録データ)を使って、RCTのような分析ができるよう工夫した方法です。

簡単に言えば、実際に薬を使った人と使わなかった人のデータを整理し、仮想的にランダム化したような状態を作り出して、比較を公平に行おうというアイデアです。

そして、調査の結果は驚くべきものでした。

薬を飲んだグループの人たちは、薬を飲まなかったグループの人たちに比べて、自分を傷つける行動(自殺関連行動)が初めて起きるリスクが約17%低くなりました(具体的には、1000人を1年間観察した場合、薬を飲んだ人では約14.5件、飲まなかった人では約16.9件でした)。

さらに薬物乱用は15%、交通事故は12%、そして犯罪(裁判で有罪になるような重大なもの)についても約13%、それぞれ初めて起きる割合が低くなっていました。

ただし、「不慮の事故(けがなど)」については、初めて起きるリスクに明確な差が出ませんでした。

しかし、研究チームが注目したもう一つの視点、「繰り返し問題が起きるリスク(再発率)」では結果が変わりました。

薬を飲んだグループでは、繰り返し起きるリスクがすべての項目で明確に低下したのです。

具体的には、自殺関連行動の再発は15%、薬物乱用の再発は25%、不慮の事故の再発は4%、交通事故の再発は16%、犯罪(有罪判決)の再発は25%も減りました。

特に薬物乱用や犯罪の再発が減る効果は顕著で、薬を使い続けることで、同じ問題を繰り返す悪循環を断ち切る可能性があることを示しています。

また、研究チームは薬の種類ごとの比較も行いました。

その結果、メチルフェニデートのような刺激薬を使った人のほうが、非刺激薬を使った人よりも、全体的に問題が起こるリスクが低くなる傾向にあることもわかりました。

次ページなぜ薬を飲むだけで問題が防げるのか?

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