思い込みを崩す「公平な比較」
電動キックボードは危険というイメージが広がった背景には、「自転車より4〜10倍も事故率が高い」という従来研究の数字がありました。
この数字は各地の規制強化の根拠にもなりましたが、比較の条件がそろっていないという弱点が指摘されてきました。
たとえば、自転車は私有、キックボードはレンタルという違いが混ざっていたり、どれくらい乗ったかという“乗車量”の差(暴露量)を十分に調整していなかったりという問題があったのです。
そこで研究チームは「不公平な比較になっていないか」をあらためて問い直し、同じ土俵での公平な比較に挑みました。
調査はヨーロッパ7都市で行われ、期間は2022年7月から2023年8月までです。比較対象は同じシェアリング会社のレンタル車両に限定し、電動キックボードと電動アシスト自転車を「同じ街・同じ運用ルール」で走らせました。
レンタル車両はGPSにより指定エリアの外に出ると電動駆動が停止する仕組みで運用されており、走行データはGPSを高頻度で記録し、走った距離・時間・利用回数を正確に把握しました。
分析に用いた“暴露量(exposure:どれくらい乗ったかの指標)”は「距離」「時間」「利用回数」の3種類で、事故件数をそれぞれで割って事故率を出しました。
対象としたのは「けがを伴う事故」に限り、車両故障が主因のケースは除外しました。両者の事故率の差は発生率比(IRR)で比べ、都市ごとのデータ量の偏りは混合効果モデルでならしました。
このように、場所・車両の所有形態・利用状況・“どれくらい乗ったか”をそろえたうえで、フェアな比較をめざした点がこの研究の特徴です。