世代で変わる文化的価値観
居酒屋でジュースを注文する若者が珍しくなくなったと感じる人は多いのではないでしょうか。
実際、オーストラリアでも若い世代がアルコールから距離を置く動きが報告され、Z世代は週あたりの総飲酒量が少なく、禁酒を選ぶ人も増えていることが示されています。
背景として、アルコールは200以上の病気と関連し、短期的な事故やケガのリスクも高めることが知られています。
オーストラリアのガイドラインでは、死亡リスクを抑えるために「週10ドリンク、1日4ドリンクを超えない」ことが推奨されています。(ここでいう1ドリンク(standard drink)は、純アルコール量で換算した単位でグラスビール1杯分ほどのアルコール量を指す)
しかし、これまでの研究は「一時的に取得したデータ」を比較する横断研究が中心で、時間の変化を追えていませんでした。
若者が飲まないのは年齢のせいなのか、それとも世代固有の文化が変わったのかを切り分けるには、同じ人を長く追う必要があります。
今回の研究は、この点を補うためにオーストラリアの全国縦断調査「HILDA調査」を活用し、年齢の影響と世代の違いを同時に検証しました。
この調査は2001年から毎年行われており、研究では23年分のデータが解析されました。
研究では18歳以上で少なくとも調査に5回以上回答した2万3368人を対象としており、合計32万4012件のデータが含まれます。
同じ参加者を長期間追いかけることで、酒離れが特定の年齢に起きる問題なのか、世代間で起きている文化的変化と言えるのかを分けて評価できます。
世代区分は米国の調査機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)の定義に従い、サイレント世代、ベビーブーマー、X世代、ミレニアル、Z世代に分類しました。
ちなみにそれぞれの世代は次のように定義されています。
サイレント世代(Silent Generation)
年齢:約80〜97歳(1928〜1945年生まれ)
戦争や戦後の混乱期を経験し、節約・勤勉・秩序を重んじる世代。
沈黙とは政治的に声を上げにくかった世代という意味。
ベビーブーマー世代(Baby Boomers)
年齢:約61〜79歳(1946〜1964年生まれ)
戦後の経済成長と人口増加の時代に育ち、努力すれば報われるという価値観を持つ世代。
消費意欲が高く、仕事中心の生活やマイホーム志向が強い。
X世代(Generation X)
年齢:約45〜60歳(1965〜1980年生まれ)
高度経済成長の終盤から情報化社会の始まりを体験した世代。
アナログとデジタルの両方に慣れており、柔軟で現実的な考え方をする。
ミレニアル世代(Millennials)
年齢:約29〜44歳(1981〜1996年生まれ)
インターネットと携帯電話の普及期に育ち、SNS文化の形成を体験した世代。
多様性や環境問題への意識が高く、自分らしい生き方や心の豊かさを重視。
Z世代(Generation Z)
年齢:約13〜28歳(1997〜2012年生まれ)
スマートフォンとSNSが当たり前の社会で育ったデジタルネイティブ世代。
健康やメンタルケアを重視し、無理をせず自分のペースで生きることを大切にする。
出生年で区切る理由は、各世代が同じ社会体験(景気後退やパンデミックなど)に影響されやすいからです。
飲酒行動の評価は三つの指標で行いました。
一つ目は「飲まないかどうか(禁酒)」
二つ目は「1回あたりの飲酒量」(1~2ドリンク、3~4ドリンク…という数値で調査)
三つ目は「週あたりの総飲酒量」(1回の飲酒量と飲む頻度から週のドリンク数を推定)
この変換はHILDAの飲酒データを数量化する際に広く用いられる方法に準拠しています。
比較の基準(参照群)は標本数の多いベビーブーマー世代とし、各世代の禁酒のしやすさ、1回量や週量の多さを推定しました。