「飲まないことが当たり前」酒文化が変わり始めている
結果は明快でした。
Z世代はベビーブーマー世代に比べて禁酒を選びやすい傾向がとても強く、統計的な指標では「約17倍」でした。
ミレニアル世代でも約10倍、X世代でも約3倍という結果で、若い世代ほど「飲まない」選択が増えていたのです。
「飲む人」だけに絞っても、世代差ははっきりしました。
週あたりの総飲酒量は、Z世代とミレニアル世代で少なく、とくにZ世代はベビーブーマー世代より飲酒量は43%少ないという結果でした。
一方、X世代とベビーブーマーの週量は統計的に大きな差がありませんでした。
興味深いのは「1回あたりの飲酒量」です。
ミレニアルとX世代は、総合的な飲酒量はベビーブーマーより少ないものの、一度の飲酒量自体はベビーブーマーより多い傾向が見られたのです。
これは普段は飲まないが、イベントや飲み会などの付き合いで一気に飲むということを示していると考えられます。
対してベビーブーマーは、一度の飲酒量はミレニアルとX世代より控えめですが、頻度が高くそのため総合的な飲酒量も他の世代を上回っていました。
これはベビーブーマーは、夕食に毎回飲む、イベントなどがなくても仕事の後に飲みに行くなどの頻度が高いことを示しています。
そして、Z世代はミレニアルとX世代で見られた一度の飲酒量は多いという傾向も失われていました。この世代では一度の飲酒量も頻度も低下していたのです。
これはミレニアルとX世代などに見られた、イベントや飲み会などの付き合いでは飲むという行動も失われたことを示すと考えられます。
これは、若い世代のなかでもZ世代がお酒に対する文化的な態度を切り替えている可能性を示します。
また調査データではミレニアム以前の世代では、20〜30代の若い時期にもっとも多く飲み、年齢を重ねるにつれて徐々に減っていく傾向が見られました。
40代で一旦飲酒量が上がるという傾向は見られますが、Z世代は、同じ若い時期でも他の世代よりすでに飲酒量が少なく、出発点から「飲まない」世代として際立っています。
そのため、今後年齢が上がっても飲まない行動が一貫して続く可能性が高いと考えられます。
研究チームは、このような結果になった背景としていくつかの社会的変化を挙げています。
たとえば、お酒を飲まないことが“普通”になりつつあり同調圧力が弱まっていること、生活コストの上昇で「お酒にお金をかけない」節約志向が強まっていること、デジタル機器中心の余暇が広がったことで身体的リスクを伴う娯楽を避けやすくなっていることなどです。
もちろん、本研究には限界もあります。調査の回答は自己申告であり、実際の量より少なめに申告される場合があります。また、設問の選択肢の上限があるため、大量に飲む人の一部は実態より小さく見積もられる可能性があります。
それでも長期間にわたって同じ人を追いかけたことで、この研究は年齢による変化と世代の違いを分けて見ることができました。
これは「付き合いで飲む」という文化が失われつつあり、Z世代を中心として今後一貫して人類は飲まない方向に進んでいく可能性を示唆しています。
酒造業や飲食業にとっては頭の痛い問題になるかもしれませんが、若い世代の節酒傾向は、がんや肝疾患、事故のリスク低下など、公衆衛生面では恩恵につながる可能性があります。
「飲まない自由」を新しいスタンダードにしていくことが、世代を超えて健康寿命の延伸に寄与していくのかもしれません。