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Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部
history archeology

14世紀の火山噴火が「ペスト流行」を引き起こした、研究者が発表

2025.12.05 22:00:03 Friday

人類史において最悪のパンデミックと呼ばれる「黒死病(ペスト)」

その背後には、意外な“自然現象”が潜んでいたかもしれません。

イタリアやフランス、イギリスを含む中世ヨーロッパ全域で、人口の3割から6割が命を落としたとされる黒死病の大流行。

そのきっかけは、実は14世紀中頃に発生した「正体不明の火山噴火」だった。

そんな驚きの説を英ケンブリッジ大学とドイツ・ライプニッツ東欧歴史文化研究所(GWZO)の国際研究チームが発表しました。

火山噴火という自然の営みが、どのようにしてペストの蔓延という「人類史上最大級の惨事」を引き起こしたのでしょうか?

研究の詳細は2025年12月4日付で科学雑誌『Communications Earth & Environment』に掲載されています。

Volcanic eruption triggered ‘butterfly effect’ that led to the Black Death, researchers find https://www.livescience.com/planet-earth/volcanic-eruption-triggered-butterfly-effect-that-led-to-the-black-death-researchers-find Medieval volcanoes may have ignited the Black Death https://www.popsci.com/science/medieval-volcano-plague/
Climate-driven changes in Mediterranean grain trade mitigated famine but introduced the Black Death to medieval Europe https://doi.org/10.1038/s43247-025-02964-0

火山の噴煙が「ペスト」を呼び寄せた?

「1345年頃、世界のどこか――おそらく熱帯地方――で巨大な火山噴火が発生した」と研究者は指摘します。

その痕跡は、北極と南極の氷床コアに高濃度の硫黄が残されていることから判明しました。

また、当時の歴史記録や天文観測、さらにはヨーロッパ各地の「木の年輪」も、1345年から1347年にかけて夏が異常に冷涼かつ湿潤で、秋には大雨が続いて土壌流出や洪水が多発したことを示していました。

実際に、当時の記録には「日照が少なく、曇天や暗い月食が続いた」との記述も残されています。

これらはすべて、火山噴火による大量の硫酸塩エアロゾル(微粒子)が大気を覆い、太陽光を反射して冷害をもたらした証拠と考えられます。

気温低下と長雨の影響は、農業に甚大な打撃を与えました。

特にイタリアでは、ぶどうや穀物の収穫量が激減し、地元だけで人々を養うことが難しくなります。

そこで、飢饉を避けるためにイタリアの都市国家――ジェノヴァ、ピサ、ヴェネツィアなど――は、黒海沿岸(現在のアゾフ海付近)から大量の穀物を輸入し始めます。

この「交易ルートのシフト」こそが、後にペスト菌(Yersinia pestis)をヨーロッパに持ち込む導火線となりました。

すなわち、気候変動による飢饉と、それを救うための交易体制の発動。一見人類を守るための知恵が、思わぬ大災厄を呼び込む“バタフライ効果”となったのです。

次ページ「穀物船」が死を運ぶ。ペスト菌の上陸とその爆発的流行

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