牛にも道具を使う力――デッキブラシを多目的用途で使い分けていた
牛にも道具を使う力――デッキブラシを多目的用途で使い分けていた / Credit:Flexible use of a multi-purpose tool by a cow
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牛にも道具を使う力――デッキブラシを多目的用途で使い分けていた

2026.01.20 18:00:34 Tuesday

オーストリアのウィーン獣医大学(Vetmeduni Vienna)で行われた研究によって、アルプスの山あいで暮らす一頭の13歳のペット牛「ヴェロニカ」が、道具を使用している様子が、科学的に記録されました。

ヴェロニカはブラシの毛がついた側で背中や腰など皮膚が厚い場所をゴシゴシこすり、木の棒の側で乳房やお腹のようなデリケートな部分をそっと押すように掻き、合計76回にわたって「場所に合った端」を選んでいました。

こうした“一本の道具の異なる部分を別々の目的に使い分ける”多目的ツール使用は、これまで人間とチンパンジーくらいでしかはっきり報告されていません。

今回の観察研究は、「牛は道具を使えない」のではなく、「そんな姿をきちんと見てこなかっただけではないか」という問いを突きつけます。

研究内容の詳細は2026年1月19日に『Current Biology』にて発表されました。

Flexible use of a multi-purpose tool by a cow https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.11.059

牛は道具を使わないという思い混みは間違い?

デッキブラシを孫の手として使っている牛
デッキブラシを孫の手として使っている牛 / Credit:Flexible use of a multi-purpose tool by a cow

背中の真ん中がかゆいのに、手が届かなくてイライラした経験は多くの人が持っていると思います。

そのとき私たちは孫の手やブラシを探し、「ここをこう掻けば気持ちいい」という位置と力加減を、自分なりに調整します。

実は、道具を使うのは人間だけではありません。

チンパンジーが細い枝でシロアリを釣り上げたり、カラスが枝を曲げてフックのように使ったりすることは、これまで多くの研究で報告されてきました。

ただし、その中でも「一本の道具の別の部分を別の用途に使い分ける」という多目的ツール使用はとてもまれで、チンパンジー以外で確実に示された例はほとんどありません。

一方で、牛はどうでしょうか。

英語では“cow”という言葉自体が、鈍くささや愚かさの比喩として使われることすらあります。

そのため「牛の道具を使用する能力」について真面目に学術的に取り扱われることはあまり多くありませんでした。

実際、もしあなたが研究資金の管理責任者だったとして、新米の研究員が「牛の道具を使う能力を調べたいから研究費をくれ」と言ったら、素直に与えるでしょうか?

きっと多くの人は「研究資金の無駄づかい」と叩かれるのを恐れて、許可しないでしょう。

しかし今回の結果を見ると、その「無駄づかい」こそが世界中の家畜の見方を変えるきっかけになりうるとも考えられます。

研究者たちはこれまで、離島の珍しい動物や、知能が高いと評判の動物には熱心に目を向けてきましたが、最も身近な家畜の行動は、驚くほどちゃんと観察されていませんでした。

また多くの牛は短い寿命のあいだ、狭く単調な環境で暮らしています。

周りに転がっているものといえば金属の柵やコンクリートの床くらいで、枝や道具で遊んだり試したりする余地はほとんどありません。

もし「道具を使う力」があっても、試すきっかけがなければ表に出てこないはずです。

しかしある研究者がたまたま目にした一本の動画で自体は急変しました。

次ページ道具を用途で使い分ける牛を発見

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