核の中のDNAが隣に脱走していた

これまでの生物学では、ヒトの細胞はそれぞれが自分のゲノムを抱えたまま、おとなりとは基本的に無関係に暮らしていく、と考えられてきました。
がんもそうです。
ある一つの細胞のなかで変異がコツコツ積み上がっていく──そんな”個人プレー”の物語でした。
もちろん、細胞どうしが何かをやり取りすること自体は、前から知られています。
ミトコンドリアのような小さな部品や、RNA、タンパク質。
そうした荷物は行き来しています。
けれど「核の金庫に大事にしまわれた、大きなDNAの塊」となると、話しは別です。
なにせ設計図の原本です。
この大きなDNAが、細胞から細胞へ直接渡るという証拠は、ヒトを含む哺乳類ではほとんどありませんでした。
ところが今回、研究チームは、その”原本の受け渡し”が起きている現場を、顕微鏡でばっちり捉えてしまったのです。
では、DNAはどうやって隣の細胞へ渡るのでしょうか。
話は、細胞分裂のちょっとした”しくじり”から始まります。
細胞が分裂するとき、本来なら染色体はきれいに2等分されて、2つの娘細胞へ振り分けられます。
ところがときどき、この仕分けでミスが起きてしまいます。
すると、はぐれた染色体やそのかけらが、メインの核に入りそびれ、細胞質のなかにぽつんと取り残されてしまうのです。
取り残されたDNAは、やがて自分だけの小さな膜に包まれて、ミニチュアの核のような姿になります。
これが「小核」です。
金庫の中身の一部がちぎれて、部屋の片隅に”ミニ金庫”として転がっている──そんな状態だと思ってください。(※専門的にはマイクロニュークレウス(micronucleus)と呼ばれ、染色体の分配エラーの指標として、以前から知られています)
問題は、このはぐれたミニ金庫が、ときどき隣の部屋まで旅をしてしまうことでした。
細胞と細胞が触れ合い、また離れるとき、両者のあいだに細い管のような橋がかかることがあります。
細胞の骨組み──微小管やアクチン──でできた極細の連絡通路で、「ナノチューブ」と呼ばれるものです。
ナノチューブ自体は、ミトコンドリアなどの荷物を運ぶ通路として以前から知られていました。
じつはナノチューブは、2004年にラット由来の培養細胞で初めて報告された、比較的新しい発見です。
しかも一部のがん細胞は、このトンネルを使って、隣の細胞からエネルギー工場であるミトコンドリア(細胞の発電所のような器官)を”奪い取る”ことすら知られています。
けれど研究チームが顕微鏡で目の当たりにしたのは、金庫からこぼれたDNAの大きな断片が、この管のなかをじわじわと通り抜けて、隣の細胞へ届いていく光景でした。

研究チームは、この受け渡しがどれくらい広い現象なのかも確かめました。
分裂を邪魔する薬を使ったり、放射線を当てたり、ゲノム編集ツールのCRISPR-Cas9で染色体をわざと切ったり──手を替え品を替え、ゲノムを不安定にしてみたのです。
すると、どのやり方であっても、DNAの細胞間移動は起きやすくなりました。
さらに大事なのは、これが特殊な細胞だけの話ではなかったことです。
今回の実験では、がん細胞でも、がんではないヒトの細胞でも、別々の組織に由来する細胞どうしでも、さらにiPS細胞でも、同じタイプの受け渡しが観察されました。
どうやらこれは、ヒトの細胞にかなり広く備わった性質かもしれません。


























![クリーンプラネット [つけ置き強力洗剤] デトックス丸洗浄 プロフェッショナル 300g (衣類用漂白剤・非塩素タイプ)](https://m.media-amazon.com/images/I/51WGutdz9PL._SL500_.jpg)























