おてんば娘アナスタシアと、怪僧ラスプーチンの出現
物語の中心にいるアナスタシア・ニコラエヴナは、1901年6月18日、父・ニコライ2世と母・アレクサンドラ皇后のもとに生まれました。
上にはオリガ、タチアナ、マリアの3人の姉がおり、アナスタシアは末娘の第4皇女。
それから、弟となる皇太子アレクセイがいました。
4人姉妹は、それぞれの名前の頭文字を取って「OTMA」と呼ばれるほど仲がよく、その中でも末娘のアナスタシアは、いたずら好きで陽気な性格だったと伝えられています。

宮廷の中で彼女は人を笑わせ、場をかき回すような快活な少女だったようです。
しかし、この家族には外からは見えにくい大きな不安がありました。
それが、唯一の男子である皇太子アレクセイの血友病です。
血友病とは、傷口から出血が止まりにくくなる病気です。
小さなけがや内出血でも命に関わることがあり、皇位継承者であるアレクセイにとっては極めて深刻な問題でした。
母アレクサンドラは、息子を救いたい一心で、祈祷や宗教的な力にもすがるようになります。
そんな折に現れたのが、シベリア出身の宗教的カリスマ、グリゴリー・ラスプーチン(生年不明〜1916)でした。

ラスプーチンは「怪僧」と呼ばれますが、正式な僧侶ではありません。
農民出身でありながら、不思議な霊力を持つ人物として宮廷に出入りするようになった男です。
皇太子アレクセイは、それまで数々の腕の立つ名医に診られたものの、病状が改善する兆しはありませんでした。
ところが、ラスプーチンが衰弱していたアレクセイに手を触れて祈祷したところ、アレクセイの病状は急に回復し、元気に走り回るようになったのです。
これをきっかけに、ラスプーチンは皇后アレクサンドラから絶大な信頼を得ることになりました。
医学的に見れば、ラスプーチンが本当に病気を治したわけではなかったでしょう。
しかし、わが子の命におびえる母親にとって、息子の苦痛を和らげてくれるたラスプーチンは、何より頼れる人物だったのです。

この信頼関係が、ロマノフ家にとって致命的な火種となっていきます。
宮廷の外では、「皇后が怪しい男に操られている」「国家の政治がラスプーチンに左右されている」という疑念が広まりました。
ロマノフ家は、それ以前からすでに揺らぎ始めていた帝政ロシアの中で、ますます国民の不信を深めていったのです。






























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