自然の中を歩くと「注意力」「記憶力」が回復
自然が脳に及ぼす影響を研究してきた代表的な研究者の1人が、マーク・G・バーマン(Marc G. Berman)氏です。
バーマン氏らが行った有名な実験では、参加者にまず「数字逆唱課題」と呼ばれる認知テストを受けてもらいました。
これは、いくつかの数字を聞いたあと、その並びを逆から答えるというもので、注意力やワーキングメモリを必要とする課題です。
その後、参加者は約1時間の散歩に出かけました。
一方の条件では、川沿いに常緑樹が続く樹木園の中を歩きます。
もう一方では、店や交差点、人や車などの多い都市部の中を歩きました。
散歩を終えて再び同じ認知テストを受けると、自然の中を歩いたあとのほうが成績が改善していました。
一方、都市部を歩いたあとでは、同じような改善は確認されませんでした。
さらに研究者たちは参加者のルートを入れ替え、同じ人物に自然環境と都市環境の両方を経験させましたが、結果の傾向は変わりませんでした。
歩いている時間も、歩くという行為もほぼ同じです。
大きく違っていたのは、周囲の環境でした。
では、なぜ自然環境では認知機能が回復したのでしょうか。
その説明として提案されているのが「注意回復理論(Attention Restoration Theory:ART)」です。
私たちは普段、目的に合わせて意識的に注意を向け続けています。
メールを読むときには周囲の雑音を無視し、車を運転するときには信号や歩行者を見落とさず、仕事中には通知を気にしながら締め切りも覚えておかなければなりません。
こうした「意図的な注意」は無限に使えるわけではなく、使い続ければ疲れていくと考えられています。
特に都市環境には、交通、標識、人混み、広告、危険など、「見逃してはいけない刺激」が大量に存在します。
つまり街を歩いているだけでも、脳はかなり忙しいのです。































