アスピリンは認知症に効かない薬とされていた

物忘れが増えてきた親に、何か飲ませられるものはないか。
そう思って調べた人は、たいてい同じ結論にたどり着きます。
認知症を防ぐ薬は、いまのところ一つも承認されていません。
だからこそ、すでに世の中にある安くて手に入りやすい薬が使えないかと、繰り返し試されてきました。
その筆頭がアスピリンです。
100年以上前から熱や痛みを抑える薬として使われ、いまでは心臓発作や脳梗塞を防ぐために毎日少量を飲み続けている高齢者が世界中に大勢います。
血管が傷ついたときに集まって傷口をふさぐ小さな粒(血小板)どうしが、固まりにくくなるからです。
炎症を抑える働きもあるとみられ、脳の細い血管を守ってくれるのではないかという期待は以前からありました。
それを確かめたのが、ASPREEという大規模な試験です。
オーストラリアと米国に住む、おもに70歳以上の健康な高齢者1万9114人を集め、半分には低用量のアスピリン(100ミリグラム)を1日1錠、残りの半分には見分けのつかない偽薬を配り、5年近く追いかけました。
結果、認知症と診断された人の数は、両方のグループでほとんど変わらず、アスピリンは認知症の予防には使えないと判断されました。
ただ、この「差なし」は、飲んだ全員の平均と、飲まなかった全員の平均を比べたものです。
クラスのテストの平均点が去年と同じでも、何人かが大きく伸び、何人かが落ちていれば、平均は動きません。
もし10人のうち2人にだけ強く効き、残りの8人には何も起きない薬があったとしたら、全員をひとまとめにして平均した瞬間、その2人分の変化は薄まって見えにくくなります。
そして薬は「効かない薬」として棚から下ろされます。
モナシュ大学の研究チームが目を付けたのは、ASPREEの参加者がDNAを提供していたことでした。
誰がアスピリンを飲み、誰が認知症になったかという記録と、1万3541人分の遺伝情報が、ひもづいたまま残っていたのです。
「全員の平均では効かない」は、「誰にも効かない」と同じなのでしょうか。






















