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ナイフは右肩経由で歯に固定?
問題の遺骨は、イタリア北部にある、6〜8世紀頃のロンゴバルド王国時代の共同墓地で発見されました。
そこには男性のほかに何百もの遺骨が埋葬されており、人間以外にも首なし馬や猟犬の骨も見つかっています。
えらく物騒な遺骨が出土していますが、このロンゴバルド族は好戦的な民族として知られ、568年にスカンディナヴィア半島からイタリアに侵入。
今日の北イタリアにロンゴバルド王国を建国しました。
その後、774年に初代神聖ローマ皇帝のカール大帝の軍によって滅ぼされています。
調査の結果、埋葬された男性は40〜50歳と推定されており、右腕は前半部から先が切断され、代わりにナイフが置かれていました。
鈍器による外傷で手が切断されたと断定されていますが、その原因や方法は正確には分かっていません。
研究主任のイレアナ・ミカレッリ(Ileana Micarelli)氏は、次のように述べています。
「一つの可能性として、医療上の理由でやむなく前腕を切断したことが挙げられます。
おそらく、不慮の落下などにより右腕を骨折し、治癒不可能な重症となったのかもしれません。
また一方で、ロンゴバルドの戦士に特有の文化を考えると、戦闘による右腕の喪失も十分にあり得ます」
そして詳しく調べていく中で、ナイフを装着していたと見て間違いない数々の証拠が見つかり始めました。
まず、上の図でも示されているように、切断部の先端にD字型のバックルと、革製と見られる分解された有機物が発見されました。
ここから、切断部に革製の覆いを被せ、バックルでナイフを固定していた可能性が浮上しています。
さらに、切断部の尺骨(しゃっこつ、手首から肘にかけて2本ある骨のうちの小指側)に、骨棘(こつきょく、関節面の軟骨が肥大増殖・硬化してトゲのようになる症状)が見られました。
これは、骨に力学的な圧力負荷がかかっていたことを示します。
それから、右側の歯がひどく磨耗しており、エナメル質の大部分がすり減っていました。加えて、右肩の骨にC字型の奇妙な隆起が見つかっています。
これは、何を意味するのでしょう?
研究チームによると、切断部に装着した義手用のストラップは、右肩を経由して、最終的に右側の歯で固定されていたというのです。
肩の隆起は、男性がストラップを締めるために頻繁に右肩を伸ばしていたことが原因で、その動きにともない右の歯もすり減っていたと見られます。
また、骨の治癒がかなり進んでいることから、腕の切断後も長い間生きていたことがうかがえます。
ミカレッリ氏は「抗生物質が普及する以前の時代で、これは驚くべき生存率を示している」と述べています。
怪我をきっかけに自身を改造するというのは、ファンタジーのネタだけのように思いますが、義手をもちいた実在の戦士としては、中世ドイツの騎士「鉄腕ゲッツ」なども有名です。
医療技術が未熟な時代でも、しぶとく生き残り独創的な改造を自身に施して戦った戦士は意外と多いのかもしれません。