特殊な衛星「月」
地球の衛星である「月」は、地球の自転軸の安定や海の潮汐、気候などに影響を与え、生命のサイクルにおいて重要な役割を果たしています。
衛星自体はどの惑星もだいたい持っていますが、月は地球半径の約4分の1のサイズを持ち、一般的な惑星と衛星に比べるとサイズの比率が高くなっています。
そういう意味でも月は特異な存在であり、地球環境を作り出すための重要な条件となっていると考えられるのです。
そのため、科学者が宇宙で地球のように生命を育む惑星を探す際、月のような特殊な衛星を持つことは、潜在的に有益な特徴であると推測されます。
ただ恒星とちがって、自発的に光を発しない存在を宇宙から発見するのは非常に難しいです。
太陽系外惑星については、最近多くの発見が報告されていますが、系外衛星(太陽系外の惑星を周回する惑星)についてはまだ1つも見つかっていません。
そこで研究チームは今回、月のような衛星が形成される条件について、検証してみることにしたのです。
では、地球の月はどのようにして誕生したのでしょうか?
月の形成にもいくつか説はありますが、月の質量、角運動量、岩石の成分についてすべて説明できる説として、「ジャイアントインパクト(巨大衝突)説」がもっとも有力視されています。
これは、約45億年前の原始地球に火星サイズの巨大なインパクター(衝突体)がぶつかり、その衝撃で地球の周りに部分的に気化した円盤が形成され、これがわずか1カ月ほどで月になった、という説です。
そこでチームは、他の惑星が同様の方法で、月のような大きな衛星を形成できるかどうか調査しました。
研究では、さまざまな質量の架空の惑星(地球のような岩石惑星と海王星のような巨大氷惑星)で衝撃シミュレーションを行い、月を形成したような円盤をもたらすかどうか検証されました。
その結果、地球の質量の6倍(6M)を超える岩石惑星と、地球質量と同等(1M)以上の巨大氷惑星では、大きな月が形成されないことがわかったのです。
筆頭著者であるロチェスター大学の地球科学助教授、ミキ・ナカジマ(Miki Nakajima)氏は、次のように説明します。
「惑星が大きすぎる場合、インパクターの衝撃で生成される円盤は完全に気化してしまうことがわかりました。
なぜなら、一般的に巨大な惑星での衝撃は、小さな惑星での衝撃より巨大なエネルギーを生み出すためです」
円盤が完全に気化した場合、なぜ月は形成できなくなるのでしょう?
通常、衝撃で生成された円盤は、時間の経過とともに冷えて、月の構成要素である液状のムーンレット(小天体)を出現させます。
ムーンレットとは、衛星と呼ぶには小さすぎる物質(天体)のことです。
円盤が完全に気化してしまっている場合、このガスは成長したムーンレットの公転速度を削ぐ抵抗として働くため、物質はどんどん惑星へ落ちていってしまいます。
もし円盤が部分的にしか気化していなかった場合、そのようなガスによる強い抵抗は生まれません。
こうした理由から、完全に気化した円盤では、大きな衛星を形成することができないのです。
この結果は、惑星の質量によって、形成される月のサイズに制限をもたらすことになります。
現在、数千を超える太陽系外惑星が発見されていますが、その中で地球型惑星(岩石惑星)と呼ばれるタイプのほとんどは、スーパーアースという地球より何倍も大きな惑星です。
系外衛星はまだ未発見の天体ですが、研究者の多くは、その探索候補として、地球の6倍以上の惑星に焦点を合わせています。
今回の発見は、地球のような環境の惑星を探す候補を絞り込むヒントとなるほか、いまだ観測できていない系外衛星を探す際に、どこを探せばいいかというヒントにもつながると考えられます。
太陽系外で衛星を探す際は、大きな惑星の周りを探すより、小さい惑星の周りを探した方が、発見しやすいサイズの衛星が存在している可能性も高いのです。