バイアグラが犬の命を救う?
巨大食道症は、食道の肥大によって食べ物を胃に送る機能が損なわれます。
そのため、食道下部に食べ物がビン詰め状態になり、吐き出しや、放置すると肺炎を引き起こしかねません。
発症の原因はよくわかっていませんが、いくつかの犬種では遺伝性であることがわかっています。
該当する犬種は、ワイヤー・フォックステリアやミニチュア・シュナウザー、それからジャーマンシェパード、ニューファンドランド、グレートデーン、アイリッシュセッター、シャー・ペイ、グレイハウンド、ラブラドール・レトリバーなどです。
今回の研究では、男性機能不全(ED)および、肺高血圧症の治療薬として知られる「シルデナフィル」を用いました。
シルデナフィルは、アメリカの製薬会社・ファイザーにより、バイアグラとして商標登録されています。
研究チームは、シルデナフィルを液体で投与することで、食道下部の筋肉を弛緩させ、食道が開いて食べ物を胃に通すことができると考えました。
食べ物の吐き出しが減り、体重が増えた
実験では、飼い主の協力のもと、巨大食道症を患う10頭の犬を対象に、 プラシーボ(偽薬)またはシルデナフィルのいずれかを2週間投与します。
その後、1週間の期間をあけて、もう一方の薬に切り替えたのち再び2週間投与しました。
飼い主には5週間の調査期間中、犬が食べ物を吐き出した回数を記録してもらいます。
その結果、シルデナフィルを投与した2週間で、10頭中9頭の犬の吐き出し現象が大幅に減少したと報告されました。
特に、頻繁に嘔吐する犬において最も劇的な効果が見られ、期間中に体重も増えたとのことです。
研究主任のジリアン・ヘインズ(Jillian Haines)氏は、こう述べています。
「シルデナフィルの投与で、食道下部の括約筋が弛緩し、20分から1時間ほど開くことが確認できました。
食事のときだけ開けば問題ないので、これはとても有効な方法です。
また、まれに胃腸に刺激を感じること以外に、犬に対する副作用はありませんでした。
シルデナフィルは筋肉の弛緩により逆流を抑える初めての薬であり、巨大食道症が最終的に犬の命を奪うことを考えれば、大きな成果でしょう」
しかし一方で、あまりに病状が深刻な犬では、薬を胃の中に入れて吸収させることが難しく、結果はそれほど良いものではありませんでした。
今回の成果は有望であるものの、シルデナフィルについてまだ分かっていないことも多く、実用化のためにさらなる調査が必要です。
ヘインズ氏は現在、「この薬の効果について多くの獣医師から問い合わせがきている」といいます。
今後、その安全性や投与量などが確立されれば、バイアグラが犬の命を救うものとなる日は近いでしょう。