血圧を下げる薬で「脳内麻薬」が増える
高血圧は多くの人々にとって身近な病気です。
そのため薬の開発も盛んで、体のさまざまな部位に作用する降圧剤が存在します。
中でも血管をリラックスさせる効果がある「ACE阻害薬」は安全性が高く、多くの人々に処方されていました。
血管がリラックスして「ガバガバ」になると、少ない負荷(血圧)で全身に血を届けられるようになるからです。
【※日本ではレニベース(エナラプリル)・タナトリル(イミダプリル)・エースコール(テモカプリル)などの薬名で処方されています】
しかし近年の研究により、「ACE阻害薬」を投与された患者において、うつ病が改善したとする報告が行われるようになってきました。
マウスを強制的にうつ状態にする慢性社会的敗北ストレス実験でも、「ACE阻害薬」の投与によってマウスのうつが緩和することが判明しています。
【※これまでの研究で、脳の報酬系(快楽の発生源)に「ACE阻害薬」のターゲットとなるACEが豊富に存在すること自体は知られていましたが、何をしているかは不明でした】
そこで今回、ミネソタ大学の研究者たちは「ACE阻害薬」がどのように脳に作用するかを調査。
具体的には、マウスから摘出した脳を新鮮なうちにスライスし、「ACE阻害薬」に脳細胞がどのように反応するかを調べていきました。
その結果、脳において「ACE阻害薬」は、血管をリラックスさせる本来の機能とはまた別に、脳内麻薬「エンケファリン(MERF)」の分解を防いでいることが判明したのです。
エンケファリンは、モルヒネやアヘンと同じように、脳内のモルヒネ受容体(オピオイド受容体)に結合して、鎮痛効果をはじめとした精神作用を与える上、麻薬と違って依存性がありません。
つまり、降圧剤である「ACE阻害薬」を服用するだけで、脳内では依存性のない麻薬成分が増加し、苦しみを和らげ幸せにしてくれていたのです。
うつ状態の人間やマウスに「ACE阻害剤」を投与すると症状が緩和するのも、同様のエンケファリン濃度の増加による苦しみの緩和のためだと考えられます。
ところが「ACE阻害薬」が脳に与える恩恵はそれだけではありませんでした。