農耕を始めたことで身長が約3.8cm低下
今回の研究では、これまでにヨーロッパ各地で見つかった古代人167名(女性67名、男性100名)の遺骨を対象に、DNA分析と身長測定を行いました。
遺骨はいずれも3万8000年前から2400年前のもので、すなわち、ヨーロッパ人が約1万2000年前に農耕を始める「前」と「後」の時代に生きた人々です。
遺骨サンプルは、「狩猟採集民」「初期農耕民」「後期農耕民」の3つに分けられます。
身長測定には、骨の断片が用いられましたが、それが体のどの部位のものか特定し測ることで、個人の身長が割り出されました。
そして、個人の身長、祖先の遺伝的指標、骨に見られるストレス度をまとめたモデルを作成。
その結果、初期農耕民の身長は、それ以前の狩猟採取民に比べて平均3.8cmも低いことが判明しました。
しかし、後期農耕民は初期農耕民より平均身長が2.2cm高くなっており、農耕文化が進んでいくにつれて身長はまた伸びていることもわかりました。
1万2000年前の初期農耕民の身長を基準にすると、BC3300年ころの鉄器時代で+1.9cm、BC2300年ころの青銅器時代で+2.6cm、BC800年ころの鉄器時代で+3.2cmでした。
一方で、この結果は、祖先の遺伝的指標を加味すると、減衰していました。
たとえば、背が高くなった原因は、労働環境の変化ではなく、祖先のDNAに関係している可能性が示されています。
研究主任のステファニー・マルチニアク(Stephanie Marciniak)氏は、これについて、「身長の80%は祖先の遺伝子によるもので、残り20%が環境の変化によるもの」と指摘。
その上で、「先祖のDNA情報を取り入れると、確かに身長の低下率が少し抑えられたが、それでも初期農耕民の身長低下は顕著なものだった」と述べています。
「栄養摂取率の減少」が原因か?
特定の時代にみられる身長の低さは、適切な成長を支えるのに十分な栄養が摂取できていないことを意味します。
おそらく、農耕を始めたことで、食生活が単調になったり、食物の種類が減ったり、不作による飢饉に見舞われるようになったのでしょう。
また、より多くの人々が一緒に暮らすようになったことで、水や食べ物、土壌が汚染され、病気になるリスクも高まりました。
その証拠が、古代人の「骨のストレス度」に表れています。
初期農耕民の骨には、他の時代の人々に比べ、頭蓋骨に多孔性の骨組織ができていたり、歯のエナメル質に線が入っていたりと、「骨化過剰症(hyperostosis)」の兆候が見られました。
これらは、初期農耕民の栄養状態が悪く、病気の発症率が増えたために、成長が阻害されたことを物語ります。
農耕の始まりで人類の生活は豊かで安定したものに変化したと思われがちですが、どうやら農耕開始の初期では、不作による飢饉への対処法がなく、逆に食生活は不安定化していた可能性が高かったようです。
狩猟ならば獲物がいなければ移動することもできたでしょうが、農耕民はそういうわけにもいきません。
それでも人類が農耕を選択したというのは興味深い事実でしょう。
ただ、マルチニアク氏は、今回の研究が167人のみを対象としていることを強調し、今後、より大規模なデータセットで再調査すべきだと述べています。
また、農耕の始まった時代は、世界の場所ごとに数千年単位の差があります。
それも踏まえ、「農耕を始めた段階で、人類は一様に背が低くなったのかどうか」を明らかにしていく予定です。