知られざる一面を持つクォーツたち
クォーツ(石英)という鉱物は、その色合いによってさまざまな呼ばれ方をします。
『博物誌』においても、さまざまな特徴を持つクォーツが登場します。
クリスタル(水晶)
クォーツ(石英)という鉱物の中でも、無色透明な結晶を「クリスタル(水晶)」と呼びます。
世界各地で産出し、日本でも山梨県の乙女鉱山などで美しい水晶が数多く採掘されていました。
当時、クリスタルは氷の化石であると信じられており、『博物誌』においてもクリスタルは雪となって空から降ってくる水分から生まれると述べられています。
クリスタルは氷の化石であるがゆえに火に耐えることができず、冷たい飲み物の容器にしか使えないとされていました。
しかしながら、クリスタルはその加工のしやすさから、カメオ(浮き彫り装飾)やインタリオ(沈み彫り装飾)の材料として使われていた歴史もあります。
そんなクリスタルは、古来よりさまざまな国で装飾品やまじないの道具として用いられてきました。
たとえば、マヤ文明やその地域の原住民族はまじない用のクリスタルを「ザストゥン」と呼んでいました。
古代エジプトでは「ファイアンス」と呼ばれる、クリスタルの粉末を使った焼き物が作られていました。
アメジスト(紫水晶)
クリスタルの中でも、鉄分を含んで鮮やかな紫色に染まったものを「アメジスト(紫水晶)」と呼びます。
ブドウ酒のような色合いをしていることから、古来より酔いを防ぐ効果があると信じられてきましたが、プリニウスは「偽りごと」と、その説を否定しています。
プリニウスは、特にインド産のアメジストを称賛しており、紫色の中でも特に高貴な「テュロス紫」をしていると述べています。
アメジストは、その色合いによって呼び名が変わる宝石でした。
たとえば、やや色味の劣るアメジストは「ソコンディオス」と呼ばれており、さらに色の薄いアメジストは「サペノス」「パラニティス」と呼ばれていました。
反対に、上質なアメジストは、光に透かすと紫色の中にバラ色が現れるものであるとしており、そのようなアメジストは「パエデロス(お気に入り)」や「アンテロス(報復された愛)」、さらには「ウェヌスの瞼」と呼ばれていました。
古代ペルシャのマギ僧と呼ばれる僧侶の一派は、アメジストに太陽と月の名を彫り込み、ヒヒの毛とツバメの羽毛とともに首にかけておくと、まじない除けになると信じていました。
現代でもよく知られた宝石たちの、知られざる一面
今回は『博物誌』に登場する宝石たちの中でも、現代でもよく知られた宝石たちをご紹介いたしました。
『博物誌』を読んでいると、宝石にさまざまな美しさを見出した古代ローマの人々の感性は、現代の人々となんら変わりないことが分かります。
一方で、現代では呼ばれなくなった宝石の特別な名前や、宝石にオスとメスの区別があるという話などは、まるでファンタジー小説に登場する設定のようでとても面白いですね。
そんな『博物誌』には、これまで耳にしたことのない変わった名前の宝石たちも多数登場します。
次回は、そんな宝石たちについてご紹介いたします。