ドライバーの「認知負担」となり、「不安感」をあおる
今回の研究では、米南部・テキサス州の高速道路を対象に、交通標識による事故発生率の変化を調べました。
テキサス州の高速道路では、毎月の1週間だけ、「交通事故で今年1669人が死亡」のような電光標識を点滅させる取り組みを行っています。
そこでチームは、取り組みの開始前(2010年1月〜2012年7月)と開始後(2012年8月〜2017年12月)の事故データを比較し、事故発生率の変動を調べました。
すると、以下のような驚くべき結果が出ています。
・死亡者数のメッセージを表示した週は、表示しない週と比較して、より多くの交通事故が発生した。
・死亡者数を表示した場合、その後に続く10km以内での交通事故が4.5%増加した。
・この増加率は、制限速度を時速4.8〜8km上げるか、高速道路の警察官を6〜14%減らした場合に匹敵する
・標識による事故件数は、テキサス州における年間2600件の衝突事故、および16名の死亡者数の追加に相当する
つまり、驚いたことに交通安全を促すメッセージの掲示が、逆に交通事故を増やしていたというのです。
この原因について研究者は、交通標識がドライバーに警戒心を抱かせるのではなく、単に注意力を散漫にさせている可能性がある、と指摘します。
たとえば、「今年〇〇人が死亡」という注意を引くメッセージは、ドライバーの「認知的な負担」となり、目先の対応力を一時的に低下させていると考えられます。
とくに、高速道路のように車の速度が出ている場所では、標識に気を取られている間に運転を誤って、それが事故につながるリスクを高めるのです。
さらに、死亡者数の表示は、ドライバーの「不安感」をあおります。
不安感の増大は、運転中の操作や判断力を鈍らせるため、非常に危険です。
その証拠に、テキサス州の標識は毎年2月にリセット(死亡者数が0から再スタート)されるのですが、そうすると事故発生率が前月より最大11%も低下していたのです。
これは、標識の死亡者数が少ないことで、ドライバーの不安感につながらないためと見られます。
一方で、高速道路での交通標識の表示は、州や国によって内容も数もかなり異なります。
また、事故発生率の増加には、標識の効果の他に、ルートの複雑さや交通量の多さも関係していると見られます。
(テキサス州の道路は、ルートの分岐点が多く、交通量も他の州より多かった)
そのため、標識の表示により、事故発生率が増加しやすくなる道路環境も考慮しなければならないでしょう。
それでも、安全を促すはずの道路標識が、逆に事故を増加させていたことは注目に値します。
善意で始めた取り組みは、必ずしも良い結果につながるとは限らないようです。