23年間凍っていた精巣幹細胞を解凍したらまだ精子生産能力があったと判明!

精液の凍結保存は古くから行われており、1952年には凍結した牛の精子を使って仔牛が生れたことが報告されています。
人間においても凍結した精子には受精能力があることが知られており、不妊治療や優秀な男性の遺伝子を望む女性に対して、凍結状態の精子を提供するビジネスも存在しています。
この精子凍結は、がん治療を控えた男性たちにとっても子どもを残す手段として救いとなっています。
現在の抗がん剤の多くは精巣の機能に大きなダメージを与え、精子を生産する能力を奪ってしまうことがあるのです。
ただ問題は、小児がんなどによって、思春期前にがん治療を行わなければならなくなった男児にとっては、この方法が利用できないことでした。
なぜなら思春期前の男児たちの睾丸には、冷凍保存すべき精子がまだ存在していないからです。
そこで近年になって着目されるようになったのが、将来精子を作るようになる精巣幹細胞の保存です。
精巣幹細胞とは、いわば「精子のモト」となる細胞であり、精子をはじめ生殖器のあらゆる細胞に変化する能力を持っていることが知られています。
この「精子のモト」を凍結保存することができれば、幼い段階でがん治療を受けた男児でも、大人になって解凍・培養することで、精子を作れるようになるのです。
ただその場合問題となるのは、長期凍結保存が与える影響です。
精子の場合、比較的長期にわたって凍結保存できることが知られています。
例えば牛の場合では、15年間凍結状態にあった精子から仔牛が生れたことが報告されています。
しかし「精子のモト」となる精巣幹細胞にもそのような長期保存が可能であるかは、十分に検証ができていませんでした。
(※ある程度の万能性をもった幹細胞は、遺伝子運搬マシーンである精子とは大きく異なる存在です。ある意味では精子よりも受精卵に近いと言えるでしょう)
そこで今回、ペンシルベニア大学の研究者たちは研究室で23年間凍結状態にあったラットの精巣幹細胞を、免疫力を奪ったマウスに移植し、正常な精子が作られるかを確かめることにしました。
結果、ラットの精巣幹細胞は分裂と増殖を繰り返し、マウス体内で完全に分化した精子が生産されていることが判明します。
つまりラットの精巣幹細胞は本体寿命の10倍に及ぶ凍結期間を、精子生産能力を保持したまま生き延びていたのです。
しかし全く問題なしとはいきませんでした。
23年間氷漬けにされた精巣幹細胞には、短期間凍結ではみられない変化が起きていたのです。