絶滅したステラーカイギュウとよく似ていると考えられる原生動物マナティ
絶滅したステラーカイギュウとよく似ていると考えられる原生動物マナティ / Credit:Pixabay
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仲間を見捨てられない! すごい理由で絶滅した動物「ステラーカイギュウ」

2022.06.26 Sunday

『わけあって絶滅しました』というベストセラー書籍でも話題になった絶滅動物『ステラーカイギュウ』。

この動物は、わけありと表現されるように、絶滅の経緯に悲しい理由があります。

彼らはどのような生き物で、なぜ絶滅してしまったのでしょうか?

今回はそんな『ステラーカイギュウ』の謎に迫ります。

Steller’s Sea Cows’ Ecological Legacy, Devon Bidal https://hakaimagazine.com/news/stellers-sea-cows-ecological-legacy/
Steller’s Sea Cow (Hydrodamalis gigas} of Late Pleistocene Age from Amchitka, Aleutian Islands, Alaska, By FRANK C. WHITMORE, JR, and L. M. CARD, JR(PDF) https://pubs.usgs.gov/pp/1036/report.pdf Steller’s sea cow genome suggests this species began going extinct before the arrival of Paleolithic humans, Fedor S. Sharko https://www.nature.com/articles/s41467-021-22567-5

いつ、どこで、なぜ、どうやって絶滅した?

黒と白の帆船の絵
黒と白の帆船の絵 / Credit:wallpaperbetter

ステラーカイギュウは、1741年にロシア東部にあるコマンドル諸島で発見されました。まずは、その経緯からお話いたします。

当時、ロシア帝国のカムチャッカ探検隊が周辺を探検していましたが、過酷な環境に病人や死者が絶えない状況でした。

そんな時に必要となるものは何でしょうか? それは豊富な栄養資源です。

まさにそんな栄養資源を求めていたとき、探検隊は海で大きな『海牛(カイギュウ)』を新発見します。『カイギュウ』とは、現在でいうジュゴンやマナティーのような生物を指します。

その新種の巨大カイギュウこそが今回の主役『ステラーカイギュウ』でした。

この名前に入っている「ステラー」とは、当時この探検隊を指揮していたドイツ人の探検家であり、博物学者であり、医師でもあったステラー氏に由来しています。

ステラーカイギュウは、身体が大きかったため大勢の食事を賄うことができ、肉は比較的長期間保存が可能で、皮まで全て利用できる利便性を兼ね備えていました。

まさに、探検隊が求めていた栄養資源の要素を、全て満たしていたのです。

さらに、ステラーカイギュウはただ大人しいだけでなく、高い社会性と仲間意識を持ち合わせていました

これが彼らの不幸に繋がります。

ステラーカイギュウは家族単位で10頭ほどの群れを作って生活していましたが、『傷ついた仲間がいると、見捨てて逃げることができず、集まってピンチの仲間を助ける』という、まるで少年漫画の登場人物たちのような習性を持っていました。

つまり、探検隊が一頭だけ傷つければ仲間が自然と集まってきたため、芋づる式に捕獲することが可能だったのです。

更に、ステラーカイギュウは泳ぎが下手で、速く逃げることもできませんでした。

主食が海藻であるため、速く泳ぐ能力が備わっていなかったのです。

また、身体に脂肪が多かったため浮力が高く、海底へ潜ることもできませんでした。

背中にカモメを乗せていた記録もありますが、まさに『のんびり屋さん』といったところでしょうか?

このように、飢えた探検隊にとっては好都合のことばかりだったため、ステラーカイギュウは絶好の捕獲対象となったのです。

そしてこの噂が広まり、探検家や商人による乱獲が始まりました。

さらに彼らは、一年に一回、一頭の子しか出産していなかったと考えられており、人間による捕獲スピードに比べ、繁殖スピードが非常に遅かったことも、彼らの個体数減少を加速させていきました。

そして1768年にステラーカイギュウの最後の捕獲が記録されて以降、彼らの明確な発見報告は途絶えてしまいます。

つまり、この時点でステラーカイギュウは絶滅したと考えられるのです。

これは探検隊がステラーカイギュウを発見してから、わずか27年という短期間での出来事でした。

また、当時はラッコ狩りも激化していました。

そのため、ラッコに捕食されなくなったウニが増え、そのウニがステラーカイギュウの主食である海藻を食べつくしてしまい、ステラーカイギュウが絶滅したのでは?という説もあります。

ステラーカイギュウ狩りも、ラッコ狩りも、我々人間の仕業です。

いずれにせよ、『人間による乱獲が原因で絶滅した』とまとめて良いでしょう。

どんな見た目をしていたの?

ステラーカイギュウによく似ていると考えられているマナティのイラスト
ステラーカイギュウによく似ていると考えられているマナティのイラスト / Credit:AC

カイギュウ目の生物は、象と同じ祖先である陸上哺乳類から進化したと考えられています。

象と言えば、もちろん四足歩行の陸上動物です。

それが海洋生物であるカイギュウと近種だとは、びっくりする方も多いのではないでしょうか?

※ちなみにクジラ目やイルカ目はカバと、鰭脚(ききゃく)類(アザラシ、アシカなど)はクマやイタチと共通の祖先を持ちます。

ステラーカイギュウは、カイギュウ目、ジュゴン科に分類される海生哺乳類です。

カイギュウ目は、現在ではジュゴンとマナティしか確認されていないため、珍しいといえる生物でしょう。

また、当時の記録からすると、どうやらステラーカイギュウは『巨大なジュゴンやマナティ』のような見た目と言えそうなのですが、違った点はどこなのでしょうか?

【現存する近種であるジュゴンやマナティ
体長:約2~4.5m
体重:250kg~1,000kg(1㌧)
生息していた地域:温かい海
歯:有る
胸ビレ:そこそこ大きい
指の骨:5列の指の骨がある

ステラーカイギュウ
体長:約7~12m
体重:5,000kg(5㌧)~12,000kg(12㌧)
生息していた地域:北海など寒い海(巨体で脂肪が多い理由と考えられる)
歯:完全に退化して無くなっている
胸ビレ:長大な体に比べ、小さい
指の骨:5列の指の骨は無い

食べ物は、両者とも海藻、水草だったようですが、このように大きさ以外にも少々違いがみられたようです。

生き残りが存在する可能性は?

UMA発見
UMA発見 / Credit:いらすとや

公式の記録以降でも、ステラーカイギュウについては次のような目撃情報が報告がされています。

1768年に絶滅したとされるステラーカイギュウですが、その後数件の目撃情報もあります。
1780年:捕獲されたという記録
1854年:目撃情報
1962年:ソ連の科学者による、ベーリング海での6頭の巨大海獣の目撃報告
その後:北氷洋のさまざまな場所(グリーンランドなど)での目撃報告、ロシアにでステラーカイギュウの骨格の発見

ただこれらはすべて学術的なの報告ではなく、あくまで目撃情報に過ぎません。

そのため2022年現在、ステラーカイギュウが生存しているという確証は得られていません。

残念にも人間の乱獲によって絶滅してしまったステラーカイギュウ。

しかし、もし優しく仲間思いの彼らの発見が現代であったなら、人類とどのような関係を築けたでしょうか?

大切に保護され、イルカと並ぶ海の人気アイドルになっていたかもしれません。

現代の我々が、彼らを見る機会がなかったことはとても残念です。

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