いつ、どこで、なぜ、どうやって絶滅した?
ステラーカイギュウは、1741年にロシア東部にあるコマンドル諸島で発見されました。まずは、その経緯からお話いたします。
当時、ロシア帝国のカムチャッカ探検隊が周辺を探検していましたが、過酷な環境に病人や死者が絶えない状況でした。
そんな時に必要となるものは何でしょうか? それは豊富な栄養資源です。
まさにそんな栄養資源を求めていたとき、探検隊は海で大きな『海牛(カイギュウ)』を新発見します。『カイギュウ』とは、現在でいうジュゴンやマナティーのような生物を指します。
その新種の巨大カイギュウこそが今回の主役『ステラーカイギュウ』でした。
この名前に入っている「ステラー」とは、当時この探検隊を指揮していたドイツ人の探検家であり、博物学者であり、医師でもあったステラー氏に由来しています。
ステラーカイギュウは、身体が大きかったため大勢の食事を賄うことができ、肉は比較的長期間保存が可能で、皮まで全て利用できる利便性を兼ね備えていました。
まさに、探検隊が求めていた栄養資源の要素を、全て満たしていたのです。
さらに、ステラーカイギュウはただ大人しいだけでなく、高い社会性と仲間意識を持ち合わせていました。
これが彼らの不幸に繋がります。
ステラーカイギュウは家族単位で10頭ほどの群れを作って生活していましたが、『傷ついた仲間がいると、見捨てて逃げることができず、集まってピンチの仲間を助ける』という、まるで少年漫画の登場人物たちのような習性を持っていました。
つまり、探検隊が一頭だけ傷つければ仲間が自然と集まってきたため、芋づる式に捕獲することが可能だったのです。
更に、ステラーカイギュウは泳ぎが下手で、速く逃げることもできませんでした。
主食が海藻であるため、速く泳ぐ能力が備わっていなかったのです。
また、身体に脂肪が多かったため浮力が高く、海底へ潜ることもできませんでした。
背中にカモメを乗せていた記録もありますが、まさに『のんびり屋さん』といったところでしょうか?
このように、飢えた探検隊にとっては好都合のことばかりだったため、ステラーカイギュウは絶好の捕獲対象となったのです。
そしてこの噂が広まり、探検家や商人による乱獲が始まりました。
さらに彼らは、一年に一回、一頭の子しか出産していなかったと考えられており、人間による捕獲スピードに比べ、繁殖スピードが非常に遅かったことも、彼らの個体数減少を加速させていきました。
そして1768年にステラーカイギュウの最後の捕獲が記録されて以降、彼らの明確な発見報告は途絶えてしまいます。
つまり、この時点でステラーカイギュウは絶滅したと考えられるのです。
これは探検隊がステラーカイギュウを発見してから、わずか27年という短期間での出来事でした。
また、当時はラッコ狩りも激化していました。
そのため、ラッコに捕食されなくなったウニが増え、そのウニがステラーカイギュウの主食である海藻を食べつくしてしまい、ステラーカイギュウが絶滅したのでは?という説もあります。
ステラーカイギュウ狩りも、ラッコ狩りも、我々人間の仕業です。
いずれにせよ、『人間による乱獲が原因で絶滅した』とまとめて良いでしょう。
どんな見た目をしていたの?
カイギュウ目の生物は、象と同じ祖先である陸上哺乳類から進化したと考えられています。
象と言えば、もちろん四足歩行の陸上動物です。
それが海洋生物であるカイギュウと近種だとは、びっくりする方も多いのではないでしょうか?
※ちなみにクジラ目やイルカ目はカバと、鰭脚(ききゃく)類(アザラシ、アシカなど)はクマやイタチと共通の祖先を持ちます。
ステラーカイギュウは、カイギュウ目、ジュゴン科に分類される海生哺乳類です。
カイギュウ目は、現在ではジュゴンとマナティしか確認されていないため、珍しいといえる生物でしょう。
また、当時の記録からすると、どうやらステラーカイギュウは『巨大なジュゴンやマナティ』のような見た目と言えそうなのですが、違った点はどこなのでしょうか?
【現存する近種であるジュゴンやマナティ】
体長:約2~4.5m
体重:250kg~1,000kg(1㌧)
生息していた地域:温かい海
歯:有る
胸ビレ:そこそこ大きい
指の骨:5列の指の骨がある
【ステラーカイギュウ】
体長:約7~12m
体重:5,000kg(5㌧)~12,000kg(12㌧)
生息していた地域:北海など寒い海(巨体で脂肪が多い理由と考えられる)
歯:完全に退化して無くなっている
胸ビレ:長大な体に比べ、小さい
指の骨:5列の指の骨は無い
食べ物は、両者とも海藻、水草だったようですが、このように大きさ以外にも少々違いがみられたようです。
生き残りが存在する可能性は?
公式の記録以降でも、ステラーカイギュウについては次のような目撃情報が報告がされています。
1768年に絶滅したとされるステラーカイギュウですが、その後数件の目撃情報もあります。
1780年:捕獲されたという記録
1854年:目撃情報
1962年:ソ連の科学者による、ベーリング海での6頭の巨大海獣の目撃報告
その後:北氷洋のさまざまな場所(グリーンランドなど)での目撃報告、ロシアにでステラーカイギュウの骨格の発見
ただこれらはすべて学術的なの報告ではなく、あくまで目撃情報に過ぎません。
そのため2022年現在、ステラーカイギュウが生存しているという確証は得られていません。
残念にも人間の乱獲によって絶滅してしまったステラーカイギュウ。
しかし、もし優しく仲間思いの彼らの発見が現代であったなら、人類とどのような関係を築けたでしょうか?
大切に保護され、イルカと並ぶ海の人気アイドルになっていたかもしれません。
現代の我々が、彼らを見る機会がなかったことはとても残念です。