既存の設備とシステムのまま第5世代通信を越えるには?
現在は、「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」を特徴とした第5世代移動通信システム(5G)の世代です。
そして将来的には、5Gの要素を強化し、「超低消費電力」「安全性」「拡張性」などの要素を加えた「Beyond 5G」世代が到来すると考えらえています。
日本では総務省が中心となり、2030年の導入を目標としています。
Beyond 5Gの通信速度は5Gの10~100倍を目標としており、そのためには伝送の革新的な高速化が必要となるでしょう。
光ファイバーを使った通信速度を向上させるには、現在2つの方法があります。
1つは光の通り道となるコアを増やして通信量を増やす方法。
もう1つが、同じ通路を使う光の種類(モード)を増やすことで通信量を増やす方法です。
コアは光の通り道自体を増やす方法なので、技術的には実現しやすいものですが、コアを増やせば当然ケーブルの太さがどんどん増してしまいます。
モードは屈折率などが異なる光を同じ通路で一緒に送るので、データを受信する側が解析して分離する必要があり、処理が複雑になったり、長距離では光が混ざってしまい損失が大きくなるなどいくつかの問題や制限があります。
どちらも通信量を増やす重要な技術ですが、新しい高速伝送ケーブルが既存のケーブルと直径が変わってしまったりすれば、世界中で定着した光ファイバーケーブル用の製造設備や、すでに敷設済みの通信インフラをすべて変更する必要があるため、実現は難しいものとなってしまうのです。
2020年12月には、「15モード光ファイバー」が開発され、こちらは1Pbの伝送に成功しましたが、複雑な処理を必要とするため、世の中で実用化するにはかなり長期的計画になりそうでした。
そこでNICTは、既存の製造設備や技術を流用できる「標準外径のマルチコア光ファイバー」を開発することで、早期実用化を目指すことにしました。
2020年3月には、ケーブルサイズを変えずにコア(光の通り道)を4つに増やした「4コア光ファイバー」を用いることで、毎秒0.61Pbを実現。
さらにこの技術に改良を加え、2021年6月には4コア光ファイバーを用いて、毎秒0.3Pbかつ3001kmの「大容量・長距離伝送」に成功しました。
そうしてとうとう、今回NICTは、4コア光ファイバーをさらに高速化し、1Pbの大台に乗る通信量の世界新記録を樹立したのです。