がん細胞に対する「イナゴ脳の反応」を調べる
動物の中には、ヒトの病気を検知できる不思議な能力を持つものがいます。
代表的なのは「犬」で、彼らは飼い主の血糖値が下がり始めたり、がんや結核を発症したときに、それを察知できるのです。
このとき犬は、ヒトの体臭や呼気に含まれる病気特有の化学物質を嗅ぎ分けています。
他方で、これを検知できるように犬を訓練するのは、多大な時間とお金がかかってしまいます。
そこで研究チームは、犬のような嗅覚を持ちながら、訓練する必要のない「イナゴ」を活用することにしました。
イナゴは、化学物質を嗅ぎ分けられる鋭い嗅覚を持っていることから、近年、よく研究されるようになっています。
しかし、イナゴを使った方法は、犬と違ってかなり残酷です。
まず、外科手術により、イナゴの脳を生きた状態で露出させます。
次に、触覚が検知した化学物質への反応を受信できるよう、イナゴの脳に電極を刺し込みます。
その後、口腔がん患者から採取した3種類のがん細胞と、健康な口腔細胞を培養。
それぞれの細胞が放つ揮発性物質を触覚に当てることで、脳の反応の違いを調べました。
すると、イナゴの生きた脳は、がん細胞と健康な細胞とで、まったく異なる反応を示したのです。
記録された電気活動のパターンは非常に明瞭で、ある種の細胞が放つ揮発性物質を触覚に当てるだけで、それが「がん細胞」か「健康な細胞」であるかを識別できました。
研究主任のデバジット・サハ(Debajit Saha)氏は「昆虫の脳が、がん検出ツールとして検証されたのは今回が初めてであり、その上、高感度かつ信頼性が高く、検出速度も非常に速かった」と述べています。
ただし今のところ、明確な信号を得るには40個のニューロンからの記録が必要であり、それには6〜10匹のイナゴの脳が必要であるという。
サハ氏は、より性能の高い電極などを導入することで、1匹のイナゴだけでがん診断ができるようにしたいと考えています。
さらに、イナゴの脳と触覚をポータブル機器に搭載し、どこでも簡単にがんを調べられるシステムを構築するつもりだと述べました。
もしかしたら将来的には、飲酒検問のように、イナゴに息を吹きかけるだけで、がんの有無がわかるかもしれません。