免疫細胞が自分を攻撃しないように学ぶ「学校」の仕組みが判明!
人間の免疫システムは極めて優秀であり、病原体となる細菌やウイルスから体を防衛し、悪性腫瘍に発展しかねない異常細胞を検知して除去することが可能になっています。
しかし、これらの優れた機能を発揮する大前提として、免疫細胞たちは自己(味方)と非自己(敵)を区別する必要があります。
もし免疫細胞たちの敵味方識別が働かない場合、免疫細胞の持つ高い攻撃力が自分の体に向かってしまい、致命的な自己免疫疾患を引き起こします。
そのため私たちの体には、免疫細胞(特にT細胞)たちが敵味方の違いを学ぶための「学校」が必要です。
これまでの研究により、上半身にある「胸腺」と呼ばれる小さな臓器が、T細胞たちの「学校」となっていることが知られています。
生れたばかりのT細胞はまず胸腺に送られ、そこで自分の体を攻撃しないように教え込まれまれるのです。
しかし、いったいどんな仕組みでT細胞に教育が行われているのか、詳しい仕組みはわかっていませんでした。
そこで今回、ハーバード大学の研究者たちは、胸腺でT細胞の教育を行っていると考えられている仕組みがどんなものであるかを詳しく調べることにしました。
すると驚いたことに、胸腺には皮膚・筋肉・肺・肝臓・腸などさまざまな体の細胞を真似る「模倣細胞」のクラスターが存在することが判明しました。
つまり「学校(胸腺)」の内部では体のさまざまな細胞を真似た、多種多様の「ダミー人形(模倣細胞)」の展覧会のような状態になっており、T細胞たちはそれら模倣細胞と接することで、攻撃してはならない自分の細胞の特徴を学んでいたのです。
研究者の1人は「胸腺の中に筋肉・腸などさまざまな器官にみられるのと似た多様な細胞が存在することに驚いた」と述べています。
しかしより驚くべきは、胸腺の内部に雑多な細胞が存在することを最初に記した文献が、1800年代半ばまでさかのぼれることです。
過去の研究者たちは、胸腺を顕微鏡で観察し、筋肉・腸・皮膚のような細胞が存在することを発見していたのです。
ただ当時、胸腺は盲腸と同じような何の意味もない、摘出しても大丈夫な痕跡器官とみなされており、後年に至るまで詳しい調査が行われることはありませんでした。
(痕跡器官:祖先の生物では機能していたが、退化して跡だけが残っている器官)
ですが今回の研究は、非常に古い発見に意味を与え、さらに分子レベルでのメカニズムの解明にも挑んでいます。
さまざまな体の部位を模倣する模倣細胞は、いったいどんなメカニズムで模倣を実現していたのでしょうか?