フィールズ賞を受賞した4人の数学者の近影
フィールズ賞を受賞した4人の数学者の近影 / Credit:Fields Medals 2022
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数学嫌いこそ読んでほしい! フィールズ賞を受賞した4人の数学者のインタビュー

2022.07.07 Thursday

フィールズ賞の受賞者が発表されました。

数学界のノーベル賞と言われるフィールズ賞は4年に1度開催される国際数学者会議(ICM)において決定され、今年は4人の数学者に対して栄誉が送られました。

彼らの業績を理解するのは困難ですが、どんな人たちであるかは興味があります。

そこで今回は彼らに対して行われたインタビューの要約を紹介したいと思います。

発表内容の詳細は『国際数学連合』のホームページにて公開されています。

Fields Medals 2022 https://www.mathunion.org/imu-awards/fields-medal/fields-medals-2022

「受賞の知らせが迷惑メールの欄に届いていた」ユーゴ・デュミニル-コパン氏

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Credit:Fields Medals 2022

最初に紹介するのは「相転移の確率論」における長年の問題を解決した「コミュ力ギガ盛り系数学者」のユーゴ・デュミニル-コパン氏です。

質問者:どんな経緯で数学者になったのですか?

デュミニル-コパン氏:はじめは天文学に興味があり、数学者が実在する仕事とは考えられませんでした。

しかし高校から大学にかけて、次第に数学が好きになり、数学の教師になることを目指すようになりました。

「(数学の)研究」の面白さを実感したのは大学院に入ってからで、そこから数学者に向けて一直線でした。

質問者:学生時代には、どんな数学の分野が好きでしたか?

デュミニル-コパン氏:学生時代には好きな数学の分野はありませんでした。他の数学者が恋に落ちてしまうような分野を私は素通りしてきたのです。

しかし確率論だけは違いました。確率論は私が好きな全てを兼ね備えていたのです。

特に物理現象を統計的に解釈する統計物理学との出会いは素晴らしいものでした。

(※氏がフィールズ賞を受賞したのは確率論の分野での功績がみとめられたからです)

質問者:研究する対象はどのように選んでいるのですか?

デュミニル-コパン氏:証明しようとする結果と過程に美しさがあること、そして解決の過程が段階的に分解ができることが重要だと思っています。

美しさを感じることは創造性を発揮するために必須であり、段階を経ることは長期的な目標を達成するのに必須だからです。

また私にとってアイディアというものは「集団で出てくるもの」であり、最も必要な瞬間には出てきてくれません。

段階を踏んで組織的に進めることは、アイディアを生かすためにも重要となります。

ただ現実問題として、常に段階的なアプローチが上手くいくわけではありません。

興奮のあまり、あらゆる考えが湧き出て、原稿が何ページも積み重なり、そして共同研究者とのコミュニケーションも非常に激しくなる瞬間があります。

この瞬間は非常に疲れますが、私は科学者というのは、この瞬間のために存在すると考えています。

質問者:「ひらめき」が降りてきた瞬間はありますか?

デュミニル-コパン氏:はい、今でも鮮明に覚えています。その日はごく普通の日でした。

友人であり長年の共同研究者であるタシオン氏と雑談をしていると、突然、当時私が取り組んでいたものとは全く別分野の式証明が頭に浮かんだのです。

このときの証明は後に、現在統計物理学の教科書に記載されるほど有名になりました。

この話で注目すべきは、無目的ですが知的な言葉のラリーが、まったく新しい発見につながったということです。

それ以来、私は味をしめてしまい、無目的な議論を積極的に行うようになりました。

幸い、無目的な議論はその後何度も、新しい「ひらめき」をもたらしてくれました。

私にとって研究とはグループ体験です。

仲間と一緒に仕事をすることで得られる知的な体験が、私がこれまで手掛けてきた研究成果の大部分を占めています。

質問者:教授として数学を教えることはインスピレーションにつながりますか?

デュミニル-コパン氏:学生との交流や授業の準備に必要な内省(顧みること)、そしてそこからうまれるアイディアは、数学者にとって必須です。

以前、(学生とかかわらない)純粋な研究機関に勤めていたとき、教えることがあまりにも恋しくなったことがあります。

私が思うに、数学者にとって教えることは呼吸のように必須なことだと思っています。

研究から離れる機会は、自分の心に酸素を供給する機会でもあるからです。

質問者:数学の面白さを理解してもらうにはどうしたらいいでしょうか?

デュミニル-コパン氏:子供のころ、国語が嫌いだった人でも大人になって文学にハマる人がいます。

勉強としての国語と楽しむための文学や読書とが違うことに、多くの人々が気付いているからです。

しかし残念なことに、数学では同じようにいきません。

子供のころに数学が嫌いになった人々のほとんどが、大人になっても数学が嫌いなままです。

この問題の原因は、数学が実用的なツールとして考えられている点にあります。

これは大きな間違いです。

文学の美しさや楽しさが多くの人々によって共有されているように、数学の美しさや楽しさも多くの人々が触れられるようにすべきです。

そのためには、大人たちは子供に「数学が便利だよ」と言って学ぶように説得するのではなく「数学は楽しいよ」と言って自発的に学べるように誘導すべきです。

質問者:受賞の知らせを受けたときの様子を教えてください。

デュミニル-コパン氏:当時私はある数学の議論を超集中的に行っていました。

そのためメールを確認する暇がなく、受賞を知らせるメールが迷惑メールの欄に届いてしまったことに気付けませんでした。

だから受賞に気付いたのは2通目のメールを受け取ったときでした。

受賞直後に感じたのは、賞の持つ責任の大きさです。

フィールズ賞を受け取った数学者は、自分の専門分野を大衆に紹介するための大使のような役割をしなければならないからです。

私はコミュニティーの期待を裏切らないように最善を尽くしたいと思います。

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