「詩人を夢見て高校を中退した」ホ・ジュンイ氏
次に紹介するのは、異色な経歴を持つ、韓国系アメリカ人のホ・ジュンイ氏です。
子供時代のホ氏は、数学の成績が良くなく、苦手意識を感じることもありました。
また高校に入ったものの詩人を夢見て中退してしまうなど、典型的な数学者とはかなり異なる人生を歩んできたようです。
ただその後は思い直して、高卒認定試験を経てソウル大に入り、ミシガン大学で博士号を取得することになりました。
質問者:数学者になるまでの経緯を教えてください。
ホ氏:私は学生時代も大学時代も、数学が得意だったことはなく、関心もありませんでした。
私にとっての数学は他の人々と同じく、遠い昔の人が書き記した記号をただ読んで、聞き流すだけのものでした。
しかしフィールズ賞を受賞した広中平祐教授がソウル大学で行っていた数学の授業を聞いたことで、転機が訪れました。
(※広中平祐(ひろなかへいすけ)は日本の数学者で、代数幾何学の研究で日本人で二人目のフィールズ賞受賞者となった人物)
そのとき私は初めて、数学を本当に「やっている」人を見たんです。
その後は教授の事務所を訪ねるようになり、いろいろな話を聞かせてもらい、数学をすることが自分にとって自然なことと感じるようになりました。
質問者:学生時代には、どんな数学の分野が好きでしたか?
ホ氏:子供の頃は数学そのものが好きではありませんでした。
しかし今から振り返ると、数学的と言えるようないくつかの経験をしていたかもしれません。
例えば中学生のころ、テレビゲームの中で出会った特殊なチェスの問題にハマって、1週間以上、パズルを解くために全精力を費やしたことがあります。
すると、ほとんど諦めかけていたとき、問題の本質が見え始め、答えにたどりつけるようになりました。
パズルを理解するには他の方法がありましたが、直感がはたらいたのは1つだけでした。
このとき私は、何かを理解するとはどういことかを感じたのです。
質問者:研究する対象はどのように選んでいるのですか?
ホ氏:問題に取り組んでいるという感覚はありません。
問題の解決法は向こうから私のところにやって来てくれるのです。
何もしないで座っていると、自分が選んだわけでもない内容を考えるようになり、頭の中で問題の発見と理解がランダムに起こり始めます。
私は自分の考えることをほとんどコントロールできません。
そのため私自身が積極的にすべきことはあまりなく、答えは自然に生成されるのです。
ただこのような(自動的な)理解を行うには脳に大きな空き容量が必要であるため、できるだけ自分を開放するようにしています。
質問者:「ひらめき」が降りてきた瞬間はありますか?
ホ氏:面白いことに、そのような劇的な瞬間は記憶にありません。
覚えているのは、あるポイントを理解する必要があると気付いた瞬間、既にそのポイントが理解されていることです。
私たちの心は私たちの意識を越えたところにあるものも把握できるようですが、それは私たちの知らないところ(無意識)で起こっているのです。
ただその過程が進んでいくことは面白いと感じています。
数学の知識を集め思考を訓練するのは、神秘を体験するために必要な前準備だと思います。
質問者:今回の受賞に最も貢献した人物は誰ですか?
ホ氏:リストアップするのは難しいです。
論文を拾い読みしたり、図書館をぶらついたり、食堂で座っていると(数学的発見につながる)ヒーローやヒロインに出会うことができます。
この10年間は、まるで古代神話の1章を生きているようでした。
(発見のキッカケとなる)何百人もの登場人物がいて、それぞれがユニークな特殊能力を持っているように感じました。
彼らの心とつながることができたのは、昔も今も光栄なことです。
晴れた日などは、私はまるで自分が巨大な地下の菌類ネットワークにつながれたキノコのような存在に感じて、いい気分になれます。
質問者:受賞を知ったとき、どんなことを感じましたか?
ホ氏:まずは先生方や共同研究者たちに感謝の念を抱きました。
彼らはすべて、私の数学的発見の源だからです。
私は彼らが植え付けたアイディアの器に過ぎないからです。