「問題解決に13年かかった」ウクライナの女性数学者マリナ・ヴィヤゾフスカ氏
最後に紹介するのは、ウクライナ出身の女性数学者、マリナ・ヴィヤゾフスカ氏です。
ヴィヤゾフスカ氏は、どうやったら8次元において球体を最も効率的に積み重ねられるかを13年間にもおよぶ長期の研究によって証明しました。
限られた空間内部でいかにして球体を効率よくおさめるかは、古くから数学者の研究課題になっていました。
ヴィヤゾフスカ氏はこの古典的な問題を8次元に拡大して解明することに成功しました。
質問者:どうして数学者になりたいと思ったのですか?
ヴィヤゾフスカ氏:良心も祖母も祖父も化学者で、家族に数学者はいません。
ですが12歳のときに物理と数学を扱う専門学校に入り、数学オリンピックに参加するようになったことがキッカケで、数学者になりたいと思うようになりました。
質問者:その頃から、ずっと数学者を目指していたのですか?
ヴィヤゾフスカ氏:「11年生」のときに数学オリンピックに出場できず、数学者になることを断念しようとしたこともあります。
(※ウクライナの11年生は17歳にあたる)
ですがその後、大学生になると再び数学オリンピックに参加するようになりました。
学生時代が終わると再び断念しようかと思いましたが、数学には研究というものがあって、難しい問題を解いて論文を書くことができるんだと気付きました。
質問者:幾何学の研究にいきつくまでの道のりは、どのようなものだったのでしょうか?
ヴィヤゾフスカ氏:大学院では、コンピューター分野を専攻しました。
数学者になれなくても、少なくともプログラマーになれると思ったからです。
しかし、ある曲線の不変量を数えるプログラムを書いているとき、やはりプログラマーではなく数学者になりたいと思うようになりました。
特に美しさと分野をまたぐ複雑さをあわせ持つ数論に惹かれました。
質問者:球体の詰め込み問題はどうやって解決したんですか?
ヴィヤゾフスカ氏:絶対に解けると確信を得たのは、問題を関数式の方程式に落とし込んだときでした。
夏の蒸し暑い電車の中で、何をやっても上手くいかないなら、もう1回問題を書き出してみようと思ったんです。
学校では「書いて整理しないと頭の中がゴミだらけになる」と教えられていました。
そこで実際に書き出してみたところ、有望な式ができたんです。
式を解くには2カ月ほどかかりました。
質問者:受賞の知らせを受けたときどのようなお気持ちでしたか?
ヴィヤゾフスカ氏:自分がとても幸運であると思いました。
ただ私は残りの人生をどう過ごせばいいのかわからなくなりました。
私はまだ生き始めたばかりなのに、もう最高点に達してしまったと考えるのは嫌でした。
それから、賞を受けた人間に課せられる責任についても考えました。
全てを理解するには数日かかりました。
数学とは美しくて楽しいもの
今回フィールズ賞を受賞した4人の数学者たち。
彼らの果たした数学の偉大な成果については、おそらくほとんどの人が理解することはできないでしょう。
しかし、彼らがどんなことに悩み、どのように困難な道をひらいて、今回の成果にたどり着いたかを聞けば、数学嫌いの人たちも少しは数学に心を開けるようになるかもしれません。
今回紹介した数学者たちはみな、小難しくて実用的な数学ではなく、楽しくて美しい数学の世界を一般の人々にも知ってほしいと願っています。
数学はたしかに抽象的で難解な学問ですが、それは世界を作り上げているもっとも純粋で神秘的な法則とつながっています。
今回の彼らのインタビューが、多くの人々にとって美しい数学の世界に触れるきっかけとなればいいですね。
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