保護のためのウミガメの卵の移動が「脳の発達」を妨げている
ウミガメは密漁されたり、一部の地域で食料として扱われたりしています。
またウミガメが産卵したとしても、その卵が動物の餌食になったり、波にさらわれたりして全滅してしまうこともあります。
このためウミガメを助けるために、人の手で卵を保護し安全な場所に移動させたり、人工孵化によって彼らを増やす取り組みも行われています。
しかし、これらの行為は必ずしもウミガメの保護に役立つとは言えません。
なぜなら人工孵化は自然孵化と比べて、孵化率が著しく下がってしまうからです。
仮に人工孵化できたとしても、弱った子ガメを放流させてしまう場合が多く、そのほとんどが生き残らないと言われています。
そのため多くのウミガメ保護団体は、素人による子ガメの人工孵化や放流会を行わないよう注意喚起してきました。
また、人工孵化のようなものでなくとも、単に卵をビーチの別の場所へ移動させるというような行為でもウミガメの発育に問題を生じる可能性があります。
メレンデス・ヘレラ氏の研究チームはメキシコのビーチで新しく生まれた10個のウミガメの卵を見つけました。
そして、その半分を保護するためのビーチの別の場所へ移動させ、残り半分はそのままの場所で孵化させたのです。
その後、生まれてきたウミガメの赤ちゃんを比較分析しました。
その結果、卵を移動させたウミガメは、移動させなかったウミガメよりも体重が約9%軽いと分かりました。
また卵を移動したウミガメは、脳の一部の領域で神経前駆細胞と成熟した神経細胞が少ないと判明。
メスのウミガメでは、卵巣でも前駆細胞が少なかったようです。
さらに運動能力も著しく低下していました。
卵を移動したウミガメはひっくり返すと、他のウミガメに比べて、元の体勢に戻るのに2倍以上の時間がかかったのです。
この運動能力の低さは、捕食者の多い海において、生存率を大きく下げる要因となるでしょう。
では、卵をビーチの別の場所に移動させただけで脳や運動能力の発達が妨げられたのはなぜでしょうか?
研究チームは、その原因が温度や湿度の違いにあると推測しています。
卵の移動先は自然の産卵場所の近くでしたが、周りの砂が、自然の産卵場所の砂よりも、暖かくて乾燥していたのです。
この結果は、少しの環境の変化でも、ウミガメの生存率に大きな影響を与えることを示唆しています。
このためチームは、「ウミガメの卵の移動は、日常的に行うようなものではなく、卵が全滅する恐れがある例外的な場合にのみ実施すべきだ」と結論付けています。
たとえ保護のためだとしても、人間が自然の動物に介入することは避けたほうがいいようです。
私たちが本当にウミガメを助けたいと願うなら、専門家たちが勧めているように、安易に手を出さない方が良いでしょう。