高齢ドライバーの脳はフル活動していて、「処理の限界」を超えやすい
高齢ドライバーは「ブレーキの踏み間違い事故を起こしやすい」と言われています。
実際、2016~2022年に生じた248件のブレーキの踏み間違い事故のうち、141件は75歳以上の高齢者によるものでした。
その原因は、加齢に伴う認知機能の低下や脳機能の変化だと考えられますが、これまで足を使った実証実験やその際の脳活動の研究は行われてきませんでした。
そこで今回、川合氏ら研究チームは、高齢者と大学生を比較したブレーキの踏み間違いテストを実施し、その際の脳活動の違いを比較しました。
この実験には、高齢者23人と大学生21人が参加。
下記のルールに応じて、アクセルとブレーキを踏んでもらい、その時の脳活動(血流量の変化から神経活動を推定)をモニタリングしました。
- 信号の形が「〇」なら右足、「△」なら左足を使います
- 信号の色が「緑」ならアクセル、「赤」ならブレーキを踏みます
- 例えば、「緑〇」なら右足でアクセルを踏むことになります
同様の方法で、足の代わりに手で押す実験も行われました。
この実験はお年寄りじゃなくても、若干頭がこんがらがりそうな気がします。
実際実験の結果、高齢者と大学生の成績(操作ミスの数)はほぼ同等でした。
そのためこれだけを見ると、高齢者の操作能力には問題がないように思えます。
しかし、操作中の高齢者と大学生では、前頭葉(反応の切り替えや抑制を担う)の神経活動に大きな差がでました。
ペダルを押すまでの時間と神経活動が対応しており、高齢者は大学生に比べてペダルを押す判断が遅く、前頭葉全体の神経活動が高まっていたのです。
つまり高齢者は大学生に比べて課題を遂行するために多くの脳活動を必要としており、ペダルを踏み間違えないとしても脳はフル活動している状態だったのです。
またこの実験では、高齢者と大学生の両方で、足で斜めにペダルを押す(右足でブレーキを踏む)方が、まっすぐにペダルを押す(右足でアクセルを踏む)よりも判断時間が遅く、脳への負荷が大きいことが判明しました。
そもそもブレーキを踏む操作(足を斜めにクロスする操作)では脳の認知負荷が高く、この操作が高齢者の脳をさらに追いつめていたのです。
ちなみに手でペダルを押した場合では、「斜め」もしくは「まっすぐ」な操作の神経活動に違いは見られませんでした。
今回の研究により、高齢ドライバーがなぜブレーキの踏み間違い事故を起こすのか、より深く理解できるようになりました。
高齢ドライバーの切り替え能力は一見問題がないように見えますが、その背後で脳はフル活動しており、より認知負荷が高い状況では、処理の限界を超えて操作ミスする可能性が高いのです。
研究チームは、「行動のテストだけでは、潜在的な危険を検出することはできません。脳機能も合わせて検査することで、事故予備軍を検出できる可能性があります」と結論付けています。