ついにフグ毒の簡易な「人工合成法」が開発される!
フグ毒として知られるテトロドトキシン(TTX)は、人類が知るなかで最も強力な天然神経毒の1つです。
テトロドトキシンには神経細胞の電気活動を司るタンパク質(ナトリウムイオンチャンネル)の活動を停止させる効果があり、ヒトが経口摂取した場合の致死量はわずか1~2mgとされています。
また興味深いことに、この強力な毒素はフグ自身が生産しているものではなく、フグが食べる貝やヒトデに含まれる細菌が生産していることが明らかになってきました。
フグたちはテトロドトキシンの匂いがするエサを好む習性があり、エサを介して体内にテトロドトキシンを蓄積し、自分が捕食者に食べられることを回避していたのです。
(※テトロドトキシンはフグだけでなく、一部のタコやカエル、イモリ、カタツムリ、コウガイビルなど様々な動物の体内にも含まれることが知られています)
一方で、テトロドトキシンの持つ強力な神経遮断能力は、究極の鎮痛剤として働く可能性がありました。
痛みは基本的に、脳に信号がつたわってはじめて知覚されます。
そのためテトロドトキシンをヒントに神経活動を遮断する薬を作れれば、痛みの刺激が脳に伝わることを阻止することが可能になり、人間を痛みの苦痛から解放することが可能になるからです。
しかしテトロドトキシンは非常に複雑な構造をしているため、人工的に合成するのは非常に困難でした。
(※これまで日本を中心にさまざまな人工合成方法が開発されてきましたが、作業工程が複雑であり、工業的な大量生産にはつながりませんでした)
そこで今回、ニューヨーク大学の研究者たちは、市販の材料(グルコース誘導体)をもとに、22段階の工程を経て11%という高い収率を達成する方法を開発しました。
収率というのは、合成に使用した材料に対してそれが反応して目的の物質がどの程度作れるかを示したものです。
既存のテトロドトキシンの合成の難しさの1つには、工程が多すぎるために、最終的な収穫量が減少していく、という点にあります
そのため22段階で11%というと微妙に思えるかもしれませんが、既存の方法に比べて工程数が3分の1であり、収率も10倍に改善されてるとのこと。
研究者たちはインタビューに対して新たな方法は「既存の方法の30倍効率的である」と述べています。