ついにフグ毒の簡易な「人工合成法」が開発される!
ついにフグ毒の簡易な「人工合成法」が開発される! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
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ついにフグ毒「テトロドトキシン」の簡易な人工合成法が開発される!

2022.07.25 Monday

フグ毒の大量生産が可能になるかもしれません。

米国のニューヨーク大学(NYU)で行われた研究によれば、フグ毒として知られるテトロドトキシンを人工的に合成する簡易な方法を発見した、とのこと。

青酸カリの850倍の毒性を持ち300度に熱しても壊れないテトロドトキシンは「最も強力な天然神経毒」の1つとして知られており、人工合成しようとする試みは100年以上にわたり続けられてきましたが、今回の研究によってはじめて、大量生産への道が開けました。

テトロドトキシンには神経活動を強力に遮断する効果が知られており、薬として利用できるようになれば「痛み」が脳に伝わるのを防ぐ、有望な「鎮痛薬」として機能すると期待されています。

研究内容の詳細は2022年7月21日に『Science』にて掲載されました。

After 100 years of trying, scientists have found a way to create the pufferfish neurotoxin https://interestingengineering.com/pufferfish-neurotoxin-in-lab
A concise synthesis of tetrodotoxin https://www.science.org/doi/10.1126/science.abn0571

ついにフグ毒の簡易な「人工合成法」が開発される!

ついにフグ毒の簡易な「人工合成法」が開発される!
ついにフグ毒の簡易な「人工合成法」が開発される! / Credit:Canva

フグとして知られるテトロドトキシン(TTX)は、人類が知るなかで最も強力な天然神経毒の1つです。

テトロドトキシンには神経細胞の電気活動を司るタンパク質(ナトリウムイオンチャンネル)の活動を停止させる効果があり、ヒトが経口摂取した場合の致死量はわずか1~2mgとされています。

また興味深いことに、この強力な毒素はフグ自身が生産しているものではなく、フグが食べる貝やヒトデに含まれる細菌が生産していることが明らかになってきました。

フグたちはテトロドトキシンの匂いがするエサを好む習性があり、エサを介して体内にテトロドトキシンを蓄積し、自分が捕食者に食べられることを回避していたのです。

(※テトロドトキシンはフグだけでなく、一部のタコやカエル、イモリ、カタツムリ、コウガイビルなど様々な動物の体内にも含まれることが知られています)

一方で、テトロドトキシンの持つ強力な神経遮断能力は、究極の鎮痛剤として働く可能性がありました。

痛みは基本的に、脳に信号がつたわってはじめて知覚されます。

そのためテトロドトキシンをヒントに神経活動を遮断する薬を作れれば、痛みの刺激が脳に伝わることを阻止することが可能になり、人間を痛みの苦痛から解放することが可能になるからです。

フグ毒は立体的な非常に複雑な構造をしており人工合成の過程も複雑になっていた
フグ毒は立体的な非常に複雑な構造をしており人工合成の過程も複雑になっていた / Credit:wikipedia

しかしテトロドトキシンは非常に複雑な構造をしているため、人工的に合成するのは非常に困難でした。

(※これまで日本を中心にさまざまな人工合成方法が開発されてきましたが、作業工程が複雑であり、工業的な大量生産にはつながりませんでした)

そこで今回、ニューヨーク大学の研究者たちは、市販の材料(グルコース誘導体)をもとに、22段階の工程を経て11%という高い収率を達成する方法を開発しました。

収率というのは、合成に使用した材料に対してそれが反応して目的の物質がどの程度作れるかを示したものです。

既存のテトロドトキシンの合成の難しさの1つには、工程が多すぎるために、最終的な収穫量が減少していく、という点にあります

そのため22段階で11%というと微妙に思えるかもしれませんが、既存の方法に比べて工程数が3分の1であり、収率も10倍に改善されてるとのこと。

研究者たちはインタビューに対して新たな方法は「既存の方法の30倍効率的である」と述べています。

次ページフグ毒合成の歴史は1世紀に及ぶ

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