眼窩が大きくてまん丸だと、目玉が飛び出してしまう⁈
研究チームは今回、中生代(約2億5200万〜6600万年前)に存在した恐竜の化石、計410点を対象に「眼窩」の形状を分析しました。
化石標本には、眼窩が完全に保存されている頭蓋骨と、かなりの信頼度で復元されている頭蓋骨が含まれています。
また、対象とした生物には、トリケラトプスやステゴサウルスといった草食種から、Tレックスやアロサウルス、タルボサウルスのような肉食種まで、多種多様な恐竜を選んでいます。
これらの頭蓋骨を比較した結果、非常に興味深いパターンが発見されました。
草食種の眼窩が「丸い円形」であったのに対し、肉食種の眼窩は「細長い楕円形や鍵穴」のような形をしていたのです。
ただ面白いことに、Tレックスやアロサウルスでも、幼い頃は円形の眼窩をしていました。大人になるにつれて、眼窩も縦長や鍵穴のような形に変わっていったのです。
だいたい長さ1メートル以上の頭蓋骨を持つ肉食種は、ほぼすべて細長い鍵穴状の眼窩を持っていました。
これを踏まえると、肉食種は咬合力のパワーアップに応じて、眼窩を変形させる必要があったと考えられます。
そこでチームは、コンピューターモデルを用いて、「円形の眼窩」と「鍵穴の眼窩」を持つ肉食種の頭蓋骨を作成し、咬合力が頭蓋骨に与える衝撃の違いをシミュレートしました。
その結果、円形の場合は、噛みつきによって眼窩の変形が大きくなり、より強い衝撃を頭蓋骨に与えることが判明。
一方で、鍵穴の場合、噛みつきによる眼窩の変形幅が小さく、頭蓋骨への衝撃を効率的に吸収できることがわかったのです。
この結果から肉食種は、体の成長にともない咬合力が増大するにつれ、噛みつきの衝撃から頭蓋骨を守るために、眼窩を変形させていたと結論できます。
子どもの頃は、獲物が小さかったり、親のおこぼれに預かるため、眼窩も円形のままでよかったのでしょう。
またチームは、もしTレックスが鍵穴の眼窩を進化させずに、円形の眼窩を持っていたら、その中の眼球はどうなるかを試算しました。
すると、実際の眼球の重さが約2キロ、幅が13センチであるのに対し、眼窩が円形の場合は、重さ約20キロ、幅30センチに達しただろうという驚きの推定値が算出されたのです。
研究主任のステファン・ラウテンシュラガー(Stephan Lautenschlager)氏は「(大人の)Tレックスの眼窩が円形であれば、その中に収まる眼球の体積は、鍵穴の場合に比べて約7倍も大きくなっていたでしょう」と指摘します。
もしそんな状態で獲物に食らいついたりしたら、噛みつきの衝撃に耐えられずに、Tレックスの目玉は眼窩から「バビョン!」と飛び出したかもしれません。
Tレックスの”小さな瞳”には、ちゃんと機能的な必然性があったようです。