森林での60分間の散歩でストレスが軽減
研究者らは何十年も前から、都市部に住む人々に比べ、農村部の人々は精神的な健康面で優れていることを知っていました。
自然環境で過ごすことが心身に有益な効果をもたらし、ストレスやネガティブな感情を緩和することは明らかです。
とはいえ、自然がもたらす健康効果のメカニズムは、まだ十分に解明されていません。
これまでの研究で、ストレス処理に関与する脳領域の「扁桃体(amygdala)」は、都市部に住む人に比べて、農村部の人の方がストレス時の活性化が少ないことが示されています。
「一方で、その違いが、自然によって引き起こされたのか、それとも他の要因があったのかは明らかでない」と、マックス・プランク人間発達研究所の神経科学者で、本研究主任のソニア・スディマック(Sonja Sudimac)氏は述べています。
そこでスディマック氏と研究チームは、自然の中に身を置くことがストレスを直接的に減少させるかどうかを調べる実験を開始。
実験は、2019年の晩夏〜秋にかけて、63人のボランティアを募り、行いました。
参加者には、諸々の質問票とワーキングメモリ課題に回答してもらった後、脳内のMRIスキャンを受けてもらいます。
また、実験的にストレスを与える「モントリオール・イメージング・ストレス課題(MIST)」を受けてもらい、ストレス状態にある最中の扁桃体の活動も記録しました。
その後、参加者を「都会コース」か「森林コース」のいずれかにランダムに振り分け、60分間の散歩をしてもらいます。
都会コースはベルリンの繁華街を、森林コースはベルリン市内にある最大の緑地(Grunewald forest)を選びました。
散歩を終えた参加者は、再び実験室に戻り、同様の脳内スキャンと質問タスクを受けます。
その結果、都会コースを歩いた参加者では、扁桃体の活動に変化が見られませんでしたが、森林コースを歩いた参加者では、扁桃体の活動が低下し、ストレスレベルが有意に軽減していたのです。
都会コースはストレスレベルを高めてはいませんでしたが、森林環境のみがストレスに関わる神経活動を低下させていたようです。
また、この効果は、ウォーキングそのものがもたらすのではなく、自然に身を置くことが直接的な要因であることも示されました。
スディマック氏は、次のように述べています。
「今回の研究で、ストレス状態にある扁桃体の活動が、都会への暴露後は安定したままであるのに対し、森林環境への暴露後は減少することを実証しました。
このことは、自然が直接的にもたらす健康促進効果を強く支持するものです」
本研究は、人々のメンタルヘルスと全体的な幸福感を高めるために、「都会に緑地を設ける」という都市設計政策を改めて推奨する結果となりました。
近々、都会に引っ越す予定のある方は、森林や自然公園にアクセスしやすい場所を選ぶべきかもしれません。
公園でぼんやり1時間くらい過ごすというのは、ちょっとしたことのようで心には十分に良い作用がありそうです。