目線によって、こちらに気づいているか否か判断できる
研究者や自動車メーカーはこれまでにも、自動運転車に視線を提示できる「目」を付けることで、歩行者とのコミュニケーションが可能になるのではないかと考えていました。
しかし、それらは仮説の段階にとどまっており、実際の現場で、歩行者にどんな反応を促し、どれほどの効果が発揮できるのかはわかっていませんでした。
そこで研究チームは「車両の視線により、歩行者との接触事故を低減できるか?」について、実験を開始。
今回の実験では、歩行者が急いで自動運転車の前を横断しようとしている状況を設定しました。
このとき、車両の目線が歩行者に向いていなければ、車両が歩行者の存在に気づいていない(=停止しない)ことを意味すると仮定します。
すると、歩行者は「道路を渡るべきでない」と判断し、接触事故を回避できます。
反対に、車両の目線が歩行者に向いていれば、歩行者の存在に気づいている(=停止する)ことを意味し、「安全に道路を横断できる」という判断に繋がります。
この仮説を踏まえて、研究チームは、モーターで動く「目」を装着した実験車両を作製。
次に、道路を横断しようとしている歩行者の前を「目を持つ車両」と「目を持たない車両」が、それぞれ「停止」または「通過」しようとする映像を撮影しました(下の画像を参照)。
(※ ちなみに、今回の実験では、自動運転は行わず、車両はすべて手動で運転していますが、運転手の姿は見えないようにしてあります)
そして、その映像をVR環境下で、18〜49歳の男女、計18名の実験参加者に提示。
参加者には、それぞれの映像を見て、道路を横断するべきか、止まるべきかの判断をしてもらいました。
その結果、車両の視線提示は、目の付いていない車両に比べて、歩行者の主観的な安全感や危機感を高め、適切な道路横断の判断を促すことがわかりました。
歩行者の反応は、事前の仮説通りで、車両の視線により、「通過(目がこっちを見ていない)」あるいは「停止(目がこっちを見ている)」の意図が歩行者に伝わることで、危険な道路横断を低減させていました。
また、男女間で行動に差があることも示されています。
具体的には、車両の視線があった場合、目なしの車両に比べて、
・男性では、危険な道路横断(車両が通過しようとしている状況での横断)が49%から19%に減っており、
・女性では、安全な状況(車両が停止しようとしている状態)での無駄な横断停止が72%から34%に減っていました。
つまり、視線の提示は、歩行者の安全を確保するだけでなく、スムーズな交通も促すものと考えられます。
自動運転の実用化は、交通インフラに変革をもたらすと考えられますが、その実現のためには「安全が十分に確保されていること」「事故を未然に防ぐシステムが整っていること」が必須です。
本研究の成果は、自動運転車と歩行者とのコミュニケーションを円滑にし、事故を防ぐための大きな一歩となるでしょう。
近い将来、公道にはカーズのような車が走り回っているかもしれません。