14本の足で歩く単細胞生物は古くから生物学者を悩ませていた
カリフォルニア大学のラーソン氏はある日、水生の単細胞生物を顕微鏡で観察していると、奇妙な動物を発見しました。
その動物はダンゴムシのように滑らかな背中と複数の足を持ち、水の底をトコトコと歩いていました。
ラーソン氏ははじめ、観察しているサンプルに水生の虫が入り込んだと思っていたそうです。
水生の単細胞生物のなかに、足を動かしながら虫のように歩くものなどいないと信じていたからでした。
しかし詳しく調べてみると、その生物がユープロテス(Euplotes eurystomus)と呼ばれる古くから生物学者を悩ませてきた「14本の足で歩く単細胞生物」であることが判明します。
たとえば20世紀初頭の単細胞研究者たちの中には、ユープロテスの巧みな足の制御をみて、「神経系の先祖となる仕組み」が細胞内部に存在すると考えた人もいたほどでした。
興味を引かれたラーソン氏らはさっそく、ユープロテスの詳細な観察をはじめました。
すると、ユープロテスの14本の足の動きには32の異なる歩行パターンを持っていることが判明。
またラーソン氏は観察の過程で、足の動きには一連の論理が存在し、背後にはある種の情報処理が存在するのではないかと疑うようになりました。
ただラーソン氏は20世紀初頭の研究者たちとは違い、その情報処理が「神経系の先祖となる仕組み」によって行われているとは思いませんでした。
近年の研究により、神経系は生物が多細胞化した後に発生したことが判明しており、単細胞生物のどこを探しても、神経系の起源は存在しないからです。
代わりにラーソン氏らは、もっと別の情報処理の仕組みを探します。