微小管を組み上げて足を動かす機械を作る
神経系なしにどうやって歩行が実現しているのか?
ラーソン氏はその答えを細胞内部に存在する微小管に求めました。
以前から、ユープロテスの14本の足は微小管を介して本体の細胞部分とつながっていることが知られていました。
そこでラーソン氏らはユープロテスの内部の微小管を薬で破壊したり、細い針で切ったりしてみました。
するとユープロテスはもはや普通に歩くことは困難になり、動きがランダム化してしまいました。
この結果を見ると、微小管の破壊は「足を動かす能力そのもの」には影響がないものの、「歩行」を実現する情報処理能力を失うことを示しています。
そうなると気になるのが、微小管がどのようにして歩行に必要な情報処理機構を作っているかです。
謎を解明するためラーソン氏らは、コンピューター科学者と協力して、微小管が歩行運動を制御する方法をシミュレートすることにしました。
すると、微小管にかかる特定の張力と歪みが、対応する歩行状態を決定できると判明。
微小管そのものには筋肉のような自分で伸び縮みする機能はありませんが、複数の微小管を組み合わせることで、適切な部分に力を加え14本の足を連動させることが可能になっていたのです。
ラーソン氏らは、この微小管を組み合わせた仕組みを「ストランドビースト」に似ていると述べています。
ストランドビーストはオランダ人アーティストがデザインした、風などの環境に反応して動く可動式のオブジェです。
ストランドビーストの構成材料のほとんどは、一般的なプラスチック材料の1つであるポリ塩化ビニルを棒状に加工したものですが、上手く組み上げることで「歩行」を再現することが可能になります。
また共同で研究を行ったマーシャル氏は、複数の部品を規則正しく駆動させ、特定の運動パターンに収束させる仕組みは、初期の機械式コンピューターに使われた原理に従っていると述べていました。
研究者たちは、今回開発されたシミュレーションを他の単細胞生物たちの運動に当てはめることで、単細胞生物の内部で行われているさまざまな情報処理過程を浮き彫りにできる可能性があると述べています。