タランチュラの「命がけ」の繁殖とは?
オオツチグモ科(Theraphosidae)に属する大型のクモで、世界中の熱帯・亜熱帯地域に広く分布しており、「タランチュラ」という名称でもよく知られています。
その体長は種類によって様々ですが、大きなものでは脚を広げると20センチ近くになる個体もおり、“巨大で毛むくじゃらな毒グモ”として知られています。
ただし実際のところタランチュラの毒はそれほど強くなく、人間にとって致命的な脅威となることは稀です。

それでも、彼らの生態は非常にユニークで、特に繁殖に関する行動は多くの研究者を惹きつけてきました。
例えば成熟したオスのタランチュラは、交尾の前に「精子網(sperm web)」を作り、自身の精子をこの上に出します。
そして、前脚のような「触肢(palp)」の先端部分でそれを吸い取り、触肢に精子を“チャージ”した状態でメスのもとに向かうのです。
とはいえ、ここからが命がけです。
多くのタランチュラのメスは、縄張り意識が強く、非常に攻撃的。
求愛してきたオスを獲物とみなして共食いしてしまうことも少なくありません。
そのため、オスはメスに接近する際に脚を使って振動を送り、メスの機嫌を慎重にうかがいながら近づきます。
交尾(タランチュラの場合は交接という)が受け入れられると、オスはメスを持ち上げるような姿勢を取り、生殖孔に触肢を挿入して精子を注入します。
この際、いかに素早く、正確に、そしてメスに刺激を与えずに行うかが命運を分けます。
交尾後、即座に逃げなければ捕食されてしまうため、オスにとって“生殖”とは“脱出スピード”も問われる試練なのです。

そして今回の研究では、こうした命がけの交尾を行うタランチュラの中でも、特にユニークな形質を持つ個体群が中東とアフリカの乾燥地帯で発見されました。
これらは新たな「Satyrex」属として認定され、既知の種も再分類されることになりました。
結果としてSatyrex属に含まれるのは、既知種の1種(Satyrex longimanus)と、新たに発見された4種(S. ferox、S. arabicus、S. somalicus、S. speciosus)です。
すべてのオス個体に共通するのが、「極端に長い触肢」という特徴でした。
では、この長い触肢にはどんな役割があるのでしょうか。