手に持つスマホは、タイムトラベラーから取り上げた押収品?
この絵画は、1937年に、イタリア人画家のウンベルト・ロマーノ(Umberto Romano、1905〜1982)が描いた『ピンチョン氏とスプリングフィールドへの入植(Mr. Pynchon and the Settling of Springfield)』という作品です。
この絵は、1636年頃に、イギリス人の一団が米マサチューセッツ州スプリングフィールドにやって来て、町を建設する様子を描いています。
中央の赤い服を着た男性が、タイトルにもある「ウィリアム・ピンチョン(William Pynchon)」という人物で、現地の先住民族を従えて、建設を取り仕切っています。
「ピンチョン」と聞いて、ピンと来た方がいるかもしれませんが、彼は何を隠そう、現代アメリカを代表する小説家、トマス・ピンチョン(1937〜)の祖先なのです。
トマス・ピンチョンは、 『V.』(1963)や『重力の虹』(1973)といった長大かつ難解な作品で有名で、今年のノーベル文学賞の候補にもなっていました。
さて、話を絵画に戻しましょう。
絵の作者であるロマーノは、1905年にイタリア南部にあるブラチリアーノという町で生まれ、9歳のときにアメリカに渡り、その後は、絵の舞台でもあるマサチューセッツ州スプリングフィールドで芸術を学びながら育ちました。
彼は本作を、スプリングフィールドにある郵便局の壁画パネルとして完成させています。
ロマーノの作品一覧は、こちら(Umberto Romano)から閲覧できます。
しかし、気になるのは、このスマホらしきものを手に持つ先住民の男性です。
1636年にスマホなんてありませんし、もっと言えば、ロマーノが本作を描いた1937年にも携帯は存在しません。
それでも、手の中の物体はスマホにしか見えませんし、持ち方も現代人のそれとそっくりです。
親指で器用に画面をスクロールしている姿に見えないでしょうか?
この絵画は、少し前にRedditで共有され話題となりましたが、中には想像力豊かな人がいて、こんな説を提案しています。
それは、両腕を後ろ手に縛られている男性が、実はタイムトラベラーで、彼から取り上げたスマホを先住民の男性がいじっている最中だというものです。
(確かに、一人だけ肌の色も薄いですし、ズボンもどことなく現代風ではありますが… )
無論、これは冗談の一つであり、専門家による真面目な説明では「絵が描かれた当時に、よく取引に使われていた手鏡か、手斧の刃の一部だろう」と推測されています。
今回の絵画で起きたような盛り上がりには、私たちが特に不思議でもなんでも無いものを不思議なものに仕立て上げてしまう原理が隠れています。