1本の光ファイバーと1個のチップで地球2つ分の情報を送信
光ケーブルを使ったデータ通信は、現在のインターネットを支える基礎となっています。
しかし現行の光ケーブルを用いた情報通信は技術的な限界を迎えてつつあり、速度やエネルギー効率が頭打ちになりつつあります。
そこで今回、コペンハーゲン大学の研究者たちは、回路内を電子の代りに光子を流す光学チップを用いて、超並列のデータ送信システムを開発することにしました。
なにやら難しい単語が並んでいますが、原理はいたってシンプルです。
まず光学チップですが、その名の通り電子が担っていた役割を光子が行うように改良した電子回路ならぬ光子回路です。
やや乱暴なたとえになりますが、電子回路を壊すとバチっと電撃が走りますが、光子回路を破壊するとピカっと光が飛び散る……と考えて頂ければ、その違いがわかるかと思います。
また超並列のデータ送信システムのほうも、基本的な意味はタコ足配線と同じになります。
今回の研究を行うにあたってまず、37経路の光の通り道(コア)を持つ、超高性能な光ファイバーが制作されました。
単純な光ファイバーは内部に1通りの光の経路(コア)しか持ちませんが、高度な光ファイバーでは内部に複数の光の経路(コア)を持つことが可能です。
新たに開発されたチップでは、元となる光を37経路に分割し、それぞれの経路に入った光をさらに波長の異なる223色に分割します。
分割された223色の色は同じ光の経路(コア)を進みますが、波長が異なるために受信機側では1色1色を区別することが可能になっています。
そのためこのシステムでは37×223種類のデータ塊を同時並列的に送信することが可能になっているのです。
これまで行われた他の研究では、複数の装置を介することで毎秒10.66ペタビットのデータを送信可能であると報告されています。
今回の研究はその速度記録を書き換えるものではありませんが、単一の光源、単一のチップ、単一の光ファイバーというミニマムなシステムで毎秒1.84ペタビットのデータ送信が実現可能という点で、画期的と言えるでしょう。
ただ公平性を期すために指摘するならば、毎秒1.84ペタビットという数値は厳密な意味での実測値ではありませんでした。
というのも、そもそも現在の地球上には毎秒1.84ペタビットもの情報を一度に受け取れるコンピューターが存在しないからです。
そのため実際の研究では、光ファイバー内部に37通り存在する光の経路ごとに順番に情報を送信し、後に組み合わせて元のデータと一致するかが調べられました。
結果、復元は成功し、十分な性能を持つコンピューター(あるいはメモリ)さえ存在すれば、毎秒1.84ペタビットのデータ送信が可能であることが示されました。
研究者たちは開発された技術を大規模化するができれば、最終的に情報送信速度は毎秒100ペタビットに達することができると述べています。
現在、一般的な家庭のネット速度は早くても毎秒1ギガビット程度でしかありません。
もしその100万倍のペタビット級の通信速度が各家庭に普及すれば、リアルな仮想現実世界へのアクセスなど、新たなテクノロジーを実現させる基礎インフラとなるでしょう。