最初の一声はいつ? 動物の「鳴き声の起源」が4億年前に遡ると判明
かつての地球は静寂に包まれていました。
空気を振るわせるのは風や波、雨や雷など環境音に限られており、生き物たちから発せられる鳴き声はどこにも存在しませんでした。
一方、現在の地球は多種多様な動物たちの鳴き声に彩られています。
地球はいつから動物たちの鳴き声で覆われるようになったのでしょうか?
これまで進化学者たちは、さまざまな動物の鳴き声を調べ、その起源を解明しようとしてきました。
(※ここで言う鳴き声とは「肺と口を使って発せられる音」として定義しています)
その具体的な方法は、鳴き声をあげられる異なる種を比較し、その共通祖先を辿っていくというものでした。
難しく聞こえるかもしれませんが、なんのことはありません。
たとえば人間とチンパンジーは両方とも鳴き声をあげられるので、共通祖先である小さなサルにも鳴き声をあげられたであろう。
そして小さなサルとネズミも鳴き声をあげるので、その共通祖先である原始的な哺乳類も鳴き声をあげていただろう。
というように(基本的には)鳴き声をあげられる能力をもとに、共通先祖を調べていくだけです。
あまりぱっとしない方法に思えるかもしれませんが、上の例のように鳴き声の起源を人間、チンパンジー、小さなサル、ネズミ、原始的な哺乳類と上手く遡れているのは事実です。
2020年にアリゾナ大学で行われた研究では、この方法を用いて1800種の鳴き声をあげることが知られている動物を出発点にすることで、鳴き声の起源が1~2億年前であり、複数の4足動物種で独立して発生したものであると結論付けました。
しかしチューリッヒ大学の研究者たちは、この研究に盲点を発見します。
2020年の研究ではカメやトカゲ、ハイギョなどは「鳴き声」をあげない生物として考えられており、共通先祖を辿る出発点から除外されていたからです。
そして除外された理由が主に「一般的に鳴かないと考えられているから」というものでした。
つまり実際にカメやトカゲに密着して辛抱強く録音を繰り返し、本当に鳴かないと結論付けて除外したわけではなかったのです。
そこで今回チューリッヒ大学の研究者たちは2020年の研究の盲点を攻めるため、実際にカメやトカゲやハイギョなど53種の鳴かないと考えられていた動物種に密着し、辛抱強く録音を繰り返しました。
(※別に2020年のアリゾナ大学の研究者たちに恨みがあったわけではありません)
結果、一般に鳴き声をあげないと考えられていた53種類(カメ・トカゲ・ヘビ・アシナシ イモリ・サンショウウオ・ハイギョ)の全てにおいて、多様で複雑な鳴き声が存在することが判明します。
たとえばペットショップでよく売られている「アシポチ ヤマガメ」を調べたところ、求愛の鳴き声、子供のカメだけが発する鳴き声、噛みつきなど攻撃時に発せられる鳴き声、さらには新しく出会ったカメに挨拶をするためと考えられる鳴き声など、30以上の多様な発生パターンが確認されました。
そして研究者たちは、これら新たに鳴き声をあげることが確認された53種を2020年の研究で検証された1800種に追加し、改めて地球で最初に鳴き声をあげた動物の探求を行いました。
結果、約4億700万年前に存在した、魚と4足動物の中間にあたる肉鰭類(にくきるい)と呼ばれる、単一の共通祖先に行き当たりました。
肉鰭類(にくきるい)は陸上に最初に進出した脊椎動物の直接的な祖先と考えられています。
この結果は、現在の地球上が動物たちの歌声で満ちているのは、今から4億年前のデボン紀に存在した共通祖先が1回限りの進化チャンスを掴んで鳴き声をあげる能力を獲得できたからであることを示します。
しかし研究者たちはまだ満足していませんでした。