大潮で起こるクサフグの「ピチピチ行動」
日本各地に生息するクサフグは、5月中旬から7月中旬にかけての繁殖期の満月と新月の夜、つまり大潮の夜に集団で産卵を行います。
数百、数千にも及ぶクサフグの集団は浅い波打ち際に飛び込み、一斉にピチピチと体を震わせながら産卵するのです。
オスも産卵に伴い放精するため、水面は真っ白に染まります。
さながら「産卵ショー」ともいうべき壮大な光景です。
このように大潮の夜、一斉に産卵するクサフグですが、そもそも大潮の夜に産卵することにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
大潮で産卵を行う利点
クサフグの集団産卵が行われるのは、決まって大潮の夕方から夜にかけて、つまり満潮に達する前の2~3時間です。
大潮の日、満潮になると海は普段水が達しない場所まで水が達しています。
そのタイミングの浅い波打ち際なら外敵もそう多くないと考えられるため、安心な場所を狙って産卵を行っているのでしょう。
また、干満の差が大きい大潮の日は引き潮に伴って大きな速い流れが発生します。
大潮の満潮時に卵を産めば、卵は大きな流れにのって海の広い範囲へと旅立つことができるのです。
クサフグにとって大潮の夜は産卵をするにはうってつけなタイミングと言えます。
なぜ大潮のタイミングが分かるのか?クサフグの体内時計
しかしそもそもクサフグはどのようにして「大潮の夜」を知ることができるのでしょうか?
集団で一斉に産卵を行うのであれば、かなり綿密な共通の時間認識が必要となり、海の中の流れや明るさなどから外的要因での判断は難しいことが予想されます。
クサフグは外的要因ではなく、内的要因によって大潮の判断をしている可能性が高いのです。
実際に、新潟大学の安東氏らが2年間に渡って水槽内でクサフグを観察したところ、水槽の中でも海にいるときと同様に大潮の夜に産卵行動が見られました。
人間の睡眠・覚醒が太陽による生体リズム(概日リズム)によるのと同じように、クサフグもまた月の満ち欠けによる半月周期の生体リズムに従って産卵を行っているのです。
とはいえ、このような生体リズムには個体差があると言われており、生体リズムだけで何百何千ものクサフグの産卵タイミングが一致するのは難しいように思えます。
そもそも生体リズムによる産卵はどのようなメカニズムで起こるのでしょうか?