遺伝子解析で判明!クサフグの集団産卵のメカニズム
クサフグの集団産卵のメカニズムを探るため、名古屋大学のチェンジュンファン氏らの研究グループは産卵期である大潮の時期と、産卵しない小潮の時期に発現・変動する遺伝子が何か解析を行いました。
その結果、大潮で活性化する遺伝子は87個見つかり、小潮で活性化する遺伝子が38個見つかりました。
月の満ち欠けはクサフグの遺伝子の発現・変動に影響を及ぼしていたのです。
クサフグには大潮で活性化する遺伝子がある
大潮で活性化する遺伝子の中には繁殖活動を制御する生殖刺激ホルモン放出ホルモン(gnrh1)がありました。
さらに解析の結果、大潮遺伝子の中から見つかったcebpdという転写因子がこのgnrh1の発現を制御していることがわかったのです。
この解析では、大潮のときにプロスタグランジンE2(PGE2)受容体が活性化していることも明らかになりました。
これまで一部の淡水魚についてプロスタグランジン F2αがフェロモンとして繁殖行動に関わることがわかっています。
このため、クサフグもまたPGE2が何らかの形で繁殖行動に関わると考えられました。
フェロモンとして働くPGE2
そこで、実際に集団産卵が行われている際の海水を解析したところPGE2が検出されました。
また、海岸を模したクサフグの水槽にPGE2を投与したところ、クサフグは大潮のときと同じように、波打ち際に集まりピチピチと体をふるわせはじめました。
つまり、PGE2によってクサフグは産卵を誘起されるということになります。
今回の研究でフェロモンとして働くことが発見されましたが、これまでPGE2は分娩や産卵を促す生理活性物質として知られてきました。
クサフグは産卵時、PGE2を放出することで周りのクサフグも産卵を促され、集団産卵へと繋がっていきます。
そして繁殖の時期は、月の満ち欠けに伴って活性化するcebpdがgnrh1の発現を制御することで決まっているのです。
大潮遺伝子はヒトの中にも
今回見つかったcebpdという遺伝子は実はヒトにもあるもので、細胞の分化・増殖・成長のほか炎症や免疫反応、がんなどにも関わるとされています。
cebpdが大潮で活性化するということはヒトの体にも何らかの影響を及ぼすかもしれません。
なお、cebpd遺伝子を持つ生物はクサフグやヒト以外にも多くいるため、このような遺伝子解析が進めば動植物の生産拡大や健康増進にも影響するはずです。
生き物の中に残る「月のリズム」
科学的根拠はないものの人間も「満月は出産が多い」なんていう噂はよく聞きます。
実際私も1人目の子を満月の日に出産しましたが一晩で10人以上のお産が重なっていました。
人間の出産は医療が介入することも多く、明確に統計上で月周リズムを見つけることはできませんでしたが、海から遠く離れた生き物である人間が月や潮の影響を受けるのだとしたら何とも壮大な話ですね。