エアロバイオームの33%は遠方から飛んで来ていた
研究チームは、イスラエル中部のレホヴォト(Rehovot)で異なる時期に空気中の粉塵を採集し、DNA配列解析によって、そのエアロバイオームの組成を分析しました。
それと同時に、土壌や植物の表面、地中海や紅海の水、および周辺地域の粉塵も採集し、細菌の組成を比較。
加えて、トラジェクトリー(軌跡)モデリングという手法を使い、イスラエルの粉塵がどこから運ばれて来たものかを調べました。
その結果、イスラエルで採集されたエアロバイオームの33%は、北アフリカ、サウジアラビア、シリアといった遠方から風に乗って運ばれて来たことが特定されています。
特に、イスラエルのエアロバイオームは、細菌の組成と遺伝子プロファイルの両方から、1000キロ以上も離れたサウジアラビアの紅海沿岸のエアロバイオームと最も類似していることが分かりました。
さらに、その他の34%は、イスラエルの土壌に由来しており、土壌がエアロバイオームとかなりの数の細菌を交換できることが示されています。
その一方で、植物の表面(11%)と地中海や紅海(0.9%)は、エアロバイオームとの細菌交換率が低かったようです。
それでは、遠方から運ばれてきたエアロバイオームは、その土地に住む人々や動物、および環境に対して悪影響はあるのでしょうか?
これを理解するには、エアロバイオームがどのような遺伝子を持っているかを知る必要があります。
そもそも世にある細菌の大半はヒトや動物にとって無害な常在菌であり、有害なものはそれほど多くありません。
そこでチームは、イスラエルのエアロバイオームから細菌の遺伝子を解析し、他の調査対象環境(土壌、植物、海)にある細菌の遺伝子と比較。
その結果、エアロバイオームを構成する細菌は、他の環境中のものと比べ、抗生物質耐性を付与する遺伝子を平均してより多く含んでいることが判明したのです。
つまり、エアロバイオーム中の細菌は薬剤への耐性が他より強いと考えられ、こうした細菌が環境に沈着すると、殺菌や除菌が難しく、ヒトと動物に何らかの害を与える可能性があります。
しかし、エアロバイオームが実際に害を与えているかどうかを知るには、場所ごとの詳細な分析が必要です。
また、研究主任のダニエラ・ガット(Daniella Gat)氏は「粉塵中に含まれる細菌がすでに生存しておらず、薬剤耐性を発揮できない可能性も十分にある」と述べています。
細菌が生きているかどうかはRNAを調べれば分かるため、研究チームは現在、粉塵サンプルに含まれる細菌RNAの解析を計画しています。
その結果次第で、遠方から運ばれて来た細菌が有害なものかどうか判断できるでしょう。